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兄への思い
もう明日は卒業式だ──
一時期、兄貴は酷く荒れてた。
見た目も少しやつれて、あまり寝てないんじゃないかって思う程酷い顔色で見てられなかったけど、今はなんか清々しいくらい いい顔をしてる。
特別に仲のいい兄弟じゃないけどさ、やっぱり兄貴だし……心配だよ。
圭さんが遠くへ行っちゃうって事を俺は最近になって知らされた。
なんで言ってくんなかったんだよ。
俺だって本気で人を好きになった事で兄貴の気持ちはよくわかるつもりだよ?
離れてしまうと心細いよな……でも兄貴達なら大丈夫だよ。
心配ない。
調子乗るからあんまり言いたくないけど、兄貴と圭さん、凄いお似合いだし二人の関係は本当に憧れる。
竜だって同じ事を言っていた。
兄貴と同じ高校に入学してすぐ色々と高校デビューしたかった俺は、大人びていて夜遊びもしていた兄貴にくっ付いて遊んでもらったっけ。
相当鬱陶しかったと思う……
でも流行りの服を教えてくれたり、似合う髪型を考えてくれたり、嫌々ながらもちゃんと俺の事を相手にしてくれて……
初めてライブハウスに連れて行ってもらった事で、俺は修斗さんと知り合うことが出来たんだ。
ありがとう。
俺にはうるさく言ったり乱暴だったりするけどさ、本当は弟思いのいい兄貴だってよくわかってる。
兄貴が卒業して学校からいなくなる……
そう考えると、やっぱり少しだけ心細いや。
俺は自分の部屋で、兄貴の事を考えていた。でも頭の中で考えてたってこの気持ちは伝わるわけがない。照れ臭いけど、ちゃんと兄貴と顔合わせて話そう……そう思って俺は兄貴の部屋のドアを叩いた。
「兄貴……起きてる? 入ってもいい?」
「……ん」
ドアを開けると、兄貴はベッドに腰掛けていた。
「なんだよ、もう寝ようと思ってたのに……」
なんだか不機嫌そう。
「ごめん。少し兄貴と話したいなって思って」
俺が改まってるからか、兄貴は不思議そうな顔をした。
「明日、卒業だな……今までありがとう」
兄貴にありがとうなんて普段言わないから気持ちが悪い。
「はぁ? なんだよ、康介……小遣いピンチか?」
いやいや違くて……
さっき色々と考えてたからか、兄貴の揶揄い口調にも対抗する気になれずに一人しんみりしてしまった。
「ちげえよ。ほんと、ありがとう……卒業……おめでとう」
「改まってなに? わざわざそれを言いに来てくれたのか?」
俺は黙って頷いた。
「ははっ、ありがとな。卒業したって生活は変わらねぇのに……まぁ、しばらくしたら家出て独り暮らしするけどさ……なんでお前が泣きそうになってんだよ。どうした?」
「だってさ……生活、変わるだろ? 俺は変わらないけど…兄貴は変わるだろ? 圭さんと離れるの、寂しいだろ? ……俺……俺、頼りない弟だけどさ、愚痴くらい聞けるから……少しは頼れよな!」
「………… 」
「でもさ……大丈夫だよ。兄貴たち、そこら辺のカップルなんかより全然絆が強いだろ? 遠距離だって何も心配ねぇよ! な? 大丈夫! 弟の俺が保証する!」
兄貴は何も言わなかったけど、優しい顔で俺に笑ってくれた。
普段はこんな事、絶対に言えないけど。
よかった……
ちゃんと思ってる事が伝えられた。
「……康介、ありがとな……俺もう寝るわ」
「うん、また明日ね。おやすみ」
兄貴は明日卒業する。
寂しいけど……
卒業おめでとう。
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