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卒業式

静まり返った体育館の後方入り口から、静かな音楽と共に卒業生達が順に入場してくる。たった二つしか歳が違わないのに、その顔つきは皆、大人びて自信に満ちているように見えた。 陽介さんも入場してきた。 卒業生達の歩く導線沿いに座る僕は、横目で陽介さんを見つめる。 通り過ぎる陽介さんの後姿…… この制服姿も今日でおしまいなんですね。 一気に寂しさが込み上げてしまった。 ……? 不意に鼻を啜る音が聞こえ、横を見ると康介がボロボロと涙を流して豪快に泣いていた。 康介…… まだ卒業生だって泣いてないのに、泣きすぎだってば。 僕は慌てて康介を肘で小突き、ハンカチを貸してあげた。 ……でも康介らしいや。僕もつられて泣きそうになっちゃった。 滞りなく式も終わり、卒業生が退場する。 退場する陽介さんと目が合い、笑いかけてくれた。 そして僕の横でボロ泣きしている康介に気が付き、ギョッとして苦笑い。陽介さんはそのまま小さく手を振り行ってしまった。 「………ダメだ俺、泣けて泣けて…… 」 僕のハンカチを顔面に押し当てながら康介が言う。 「うん。泣き過ぎだよ康介。大丈夫?」 廊下を歩きながら、僕はちょっと心配で康介を覗き込んだ。 「大丈夫……兄貴、凄えいい顔してた。兄貴泣いてないのに俺……俺ばっか泣いてて……情けねえな」 「うん。てかさ、在校生で泣いてたのって康介くらいじゃない?」 僕の言葉に康介はガバッと顔を上げ、丸い目をして僕をみた。 「マジか? 俺だけ? 超恥ずかしいんだけど! やべー!」 「ちょっと康介可愛いー! 」 急に後ろから修斗さんが顔を出すから驚いてしまった。 「ほんと、康介っていい奴だよね? めちゃめちゃ泣いちゃってるし。大丈夫? 俺そんな康介大好きだよ! 今からそんなんじゃ俺が卒業する時どうすんの?」 あ…… 修斗さんがそんな事言うもんだから、また康介涙目になってる。 「ばっ……バカにして……どうもしないから!……寂しいけど、修斗さんが卒業……寂しいけど、別に俺、泣かないし!」 にやにやして修斗さんが康介の顔を覗いてる。 「いいよ、泣いても。俺も寂しいから……俺の時もたくさん泣いてね」 そう言って修斗さんはまた康介を泣かせてしまった。 帰り時間。 校舎の外では卒業生達が別れを惜しんでお喋りをしていたり抱き合ったりしている。 僕らもちゃんと挨拶したくて、すぐに外に出て陽介さんの姿を探した。 「あっ、陽介さん!」 陽介さんは目立つ周さんと一緒にいたからすぐに見つけることができた。 僕らが陽介さんの所へ駆けつけると、周さんは慌てて目元を袖口で擦った。 ……周さん、泣いてる? 「あ、竜太君、今までありがとうな。志音君もありがとう……ふたりともそこの頼りない康介の事、よろしくな」 そう言って陽介さんは笑う。 康介は「そんなことねえし!」って頬を膨らませプリプリしてる。そんな康介の事は無視して陽介さんは僕と志音に丁寧に握手をしてくれた。 しばらくの間、思い出話で盛り上がる。 「明日のライブ……陽介さんも行きますよね? また明日会いましょうね」 僕がそう言うと、うんうんと小さく頷き「またな!」と言って陽介さんは手を振り行ってしまった。 少し離れたところに静かに佇んでいる周さんに僕は近付き「寂しいですね」と呟く。 「……だな」 周さんも寂しそうな表情を浮かべて僕の頭を撫でてくれた。 「帰ろっか」 誰ともなくそう言って、僕らは校門を出て歩き出した。

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