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四人で最後の

今夜は周さん達のライブ。 僕が初めて康介と陽介さんに連れて行ってもらったライブハウスだった。 いつもなら楽しみでワクワクなライブなのに…… 今日は寂しさの方が上回って、僕は昨日の卒業式に続いてまた泣きそうだった。 隣には不貞腐れている康介。 さっきから無言の抗議をしていた。 「康介、知らないとは思わなかったんだもん。そんなに怒らないで……黙ってないでさ……陽介さん達だって二人で話し合った結果なんでしょ? 康介、笑顔で見送るんでしょ?」 さっき康介とした話の中で、僕が陽介さんと圭さんが卒業したら別れるという事を言ったら、康介は別れるとまでは知らなかったみたいで怒ってしまった。 「……俺だけ知らなかった! 何で兄貴は何にも言わねえんだよ! 遠距離恋愛すんじゃねえのかよ! ムカつく! 圭さんだってさ……なんで別れるんだよ。 兄貴の事好きなんだろ?……別れる必要無くね? やだよ…… 俺、泣きそうだ……」 ……もう泣いてるじゃん。 「康介……もうじきステージ始まっちゃうよ……泣かないで。僕も悲しくなっちゃうから……」 堪らなくなって、僕は泣いている康介を抱きしめ頭を撫でた。 一番辛い本人達が泣いてないのに、僕らが泣いてちゃダメなんだ。 今日は笑ってないと…… 「ほら! 康介……もう泣くのおしまい」 メソメソしている康介の顔を上げさせ、僕はその両頬をつねった。 「いってぇな!……もう!……泣いてねえよ」 康介はプウッと口を尖らせ、そっぽを向く。 「………… 」 陽介さん、まだ来てないや。 さっきから気にして陽介さんの姿を探しているんだけど、まだ来ていないらしく見つけることができなかった。 「ねぇ康介……陽介さん、来るよね?」 「ん? 来るだろ。でも卒業式終わってから話してないから知らない……」 陽介さんが来ないのが気になったけど、みんながステージに登場してライブが始まってしまったから僕はそっちに集中した。 いつもと変わらないステージ…… 圭さんは狭いステージを走り回り元気に歌う。 数曲終わったところで、僕は陽介さんが来ていることに気がついた。 陽介さんは、いつもと同じ場所。一番後ろで壁に寄りかかり、真剣な眼差しでステージを見ていた。 陽介さんの姿にホッとしていると曲が終わり、ステージにいつもの対バンのお兄さんが出てきてマイクを取った。 あれ? なんだろう…… 客席も騒つき始めた。 「四人揃ったD-ASCH としての最後のステージ……ボーカル圭は今日を最後にしばらく留守にするけど、寂しくなるけど……俺ら応援してっから!早く戻ってこいよな! ……言うなって言われたけどさ、みんなに黙っていなくなるのはダメだろ圭。ごめんな。俺言っちゃったぞ」 お兄さんは はにかんで圭さんの肩を小突く。 客席からも声が上がる。 困ったような顔をした圭さんに、みんなが「早く戻ってこいよ」「頑張れよ」と、事情はわからずともエールを送った。 そんな中、徐に周さんがマイクを取り、スタンドに置く。 無言でギターを弾き始め、それに合わせて修斗さんと靖史さんが演奏を始めた。 一気に会場は静まり返り、静かな曲調で周さんの歌声が響く…… 仲間との別れと再会を誓う曲。 きっと三人で圭さんのために作ったんだ。 素敵な曲だった。 周さんの声が……綺麗。 ダメだよ……こんなの泣けてきちゃうよ。 ステージを見る陽介さんは、変わらない表情で圭さんの方を見つめてる。 ……何を思っているんだろう。どんな思いで圭さんを見ているのだろう。 複雑な気持ちでステージを見ていると、ベースを弾く修斗さんと目が合った。何か言いたそうに僕に向かって顎をクイっと突き出している。 なんだろう? 横を見ると、大変! また康介がボロ泣きしていた。 まったく…… 僕はポケットからハンカチを出し、康介の顔面に押し付け頭を抱いてあげた。 泣きすぎだってば。 ライブが終わる頃には康介も泣き止み、途中から来ていた志音も一緒に終了後の控え室に向かった。 控え室に入るなり、圭さんが康介に声をかける。 「康介君、泣きすぎだって! ……ごめんな、嬉しいけどその泣きっぷりにちょっと笑っちゃったよ。ありがと、康介君」 康介はなんともいえない顔をして黙ってしまった。 そんな康介を見て、修斗さんが「おいで」と言ってギュッと抱きしめ慰めた。 僕は康介を抱きしめていた事を周さんに怒られる。 なんだよ、しょうがないじゃん……横で志音に笑われた。 しばらく対バンのお兄さんたちとも楽しく控え室でお喋りをして、打ち上げに行く事になった。圭さんは引越しの準備があるから早めに帰ると言いながら、みんなで移動を始める。 打ち上げの会場になったのも、僕が初めて行ったライブの時の打ち上げ会場だった。 そうだ…… ここのトイレで周さんにキスされたんだっけ。 懐かしいな。 隣にいる周さんを見ると目が合ったので、ちょっと照れくさくて笑ってしまった。 不思議そうな周さん。 あの時は混乱してばかりで、まさか周さんと恋人同士になるなんて思わなかったな。 うん……不思議。 でも周さんは運命の人だった。 僕はそう思ってる。 陽介さんと圭さんだってきっとそう…… 楽しそうにみんなと話をしている圭さん。 打ち上げと言いながらも、やっぱり送別会みたいになっていた。でもしんみりするのは嫌だからと、圭さんは楽しい話題を振り思い出話で盛り上がった。 とっても楽しいひと時だった。 みんな笑顔でお別れを言う。勿論圭さんも笑顔で…… でもこの場に陽介さんの姿はなかった。

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