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第17話
萩生家に代々伝わる薙刀はいくつかあるようで、そのうちの一つを詩はここに住む際に護身用として実家から送られてきたらしい。
僕はこの日、初めてそれを見た。
……
身体の痛みを忘れ頭の中が真っ白になり、血の気が引いていくのがわかる。
目の前の詩は無表情で、明らかにキレているのがわかった。
キレた詩なんてレア中のレアだ。
って今だから言えることだけど、その時はマジで殺されるって思ったし、恐怖で身体が震えていたと思う。
薙刀は直ぐに下げられたけど、その後めちゃくちゃ怒られて泣かされた。
詩を怒らせたらヤバい。
そう痛感した出来事だった。
だからといって詩のことが嫌いになったわけでは全然ない。
詩のことが大好きだし詩がいないと生きていけない。
それくらい僕にとって大きな存在で、そんな人から嫌われ避けられる運命なんて最悪であり絶対嫌なのだ。
それ以来僕は詩に迫ることはしていない。
それをしなければこうして至って普通にスキンシップさせてくれるので、とりあえずこれで満足するしかなかった。
「……落ち着く……」
「……もう、ちゃんと寝ろよ?……ぁ!」
その時、詩のスマホに着信が入る。
一緒に横になっていた詩は起き上がりベッドにいそいそと腰かけた。
……
……あーその顔!もう誰からかかってきたかなんて直ぐにわかるわ。
「もっしもーし!うん、お疲れ様。今もう寝るところだよ。そっちは夕方だろ?……うん……うん」
……
布団を顔半分被り、じーっと詩の横顔を眺める。
いつもより二割増しの笑顔で、電話の相手と話していてムカついた。
わかっているけどやっぱりムカつく……
はいはい、どうせ高校生の僕なんか恋愛対象外なんだ……くっそ……くっそー!
「あはは、そう霖来てるよ。うん……うん大丈夫だって。うお!?ちょ霖!」
「そう来てるっ!あーあーもう眠ーいなぁ!これから詩とベッドでイチャイチャ寝るからじゃあねー!」
詩のスマホを取り上げ、遥か向こうにいるあいつに向けて叫んだ。
何か向こうが喋ってたけどそんなのどうでもいい!
後処理は詩に任せ、僕はそのまま布団にくるまって寝たふりをした。
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