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第32話
「霖っ!ど、どうした大丈夫か!?」
捻挫したと連絡をしたその夜に、詩がうちまで駆けつけてくれた。
「……どうしたってコケたんだよ。痛いけど大丈夫だよ」
「コケたって……」
「おじさんが目の前にいたの気がつかなくてさ、思い切りぶつかっちゃった。お尻も打って痛い」
慌てながら心配そうに駆け寄る詩にキュンキュンしながら、両手を広げる。
そうすると吸い込まれるように詩が僕を抱きしめてくれるからたまらない。
あぁ……足痛いけど、落ち着くなぁ~
「おじさんにぶつかったってどこで」
「ん、学校だよ。その人ね、うちの学校の副理事長だったんだけど、スゲーいい人で病院連れて行ってくれたし、ちゃんとうちまで送ってくれたんだよ」
「え、そうなの?」
「僕が悪いのにおじさんも誤ってくれて、診察代も出してくれた」
「そっか。相手がいい人で良かったな。そのおじさんの方に怪我はなかったのかな?」
「……ないと思うけど……そういえば聞いてない。から、後で聞いてみる」
リビングの椅子に座り、その隣の椅子に詩が腰かける。
仕事帰りだから当然スーツ姿だけど、やっぱり野宮さんと詩が2つ違いだなんて信じられない。
「詩くん食べてくだろ?」
「はーい!いただきまーす」
キッチンでは僕の父さん宮ノ内汐里が夕飯の支度をしていた。
母さんは今日は帰りが遅くなるらしい。
まぁ、子供が怪我したからと言ってすぐに帰ってこれないのは知ってる。
決して子供の事を蔑ろにしているわけではないと思うけど、やっぱり母さんの生きがいは仕事なんだと思う。
「今夜はチキンのトマト煮だよ。赤ワインが合うけど、詩くんは飲めないものね~」
「ワインなんか飲んだら詩死んじゃうよ~サワーでも駄目なんだからさ」
「……仕方ないだろ。身体がアルコール受け付けないんだから」
「詩が職場の飲み会に行った時、兄さんの代わりに僕が迎えに行ったけど、そのときの詩はマジヤバいって思った。あーれは兄さんが心配するわけだよね」
「そ!それは店員さんが間違えて出したんだよ!俺ノンアルのカクテル頼んだのに、普通のカクテルだったんだぜ!甘いから全然気がつかなくてっ!」
「あっはは!あったね~そんな時!その時の霧緒くん海外だったから、その後連絡したら焦ってたよねー!慌てるイケメンって最高だよね。はい、あったかいうちに食べてね!」
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