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第48話
翌朝、家の前に一台の車が止まった。
見慣れた黒い車だ。
……
今朝は5時に目が覚めてしまった僕。
目覚ましのアラームもセットしていない時間だ。
スッキリとした目覚めなのに、素直に喜べない自分がいた。
だってまるで遠足を楽しみにしている小学生みたいじゃん。
理不尽な誘いなのに、妙にワクワクしている自分がいてそれにムカついているんだ。
……
なのにちゃんと準備して待っている僕って何なんだよ。
しかも家の前でさ……
約束の時間より少し早めに到着した車に近寄ると、助手席の窓がゆっくりと開いた。
「おはよう」
「……おは」
……
?
え、誰?
運転席の人物を確認し、思わず首を傾げてしまった。
「え、誰……」
思ったことをつい呟いてしまうなんて普段ないのに、この人の前だとそれが不思議に出てしまう……
「……あのな誰って」
「あーと……スーツ姿しか見たことないから」
「あぁ……そういうことか」
野宮さんは前髪を固めずラフに下ろしているし、丸首のグレーのニットを着ていて、いつものスーツ姿の野宮のおじさんではなかった。
「へーちょっとだけ、若く見える」
「そりゃどうも」
うわ……
フッと笑う笑顔が何故か眩しい。
久しぶりに会うせいかちょっとだけ恥ずかしいと思った。
「……言いたいこと、沢山あるんだけど」
「はいはい、ちゃんと聞くから乗りなさい」
……
「はいは、一回……」
そう言いながら助手席に乗り込んだ。
「足はもうすっかりいいみたいだな。良かった」
「そりゃあれから大分経ってるんだから治ってるに決まってるでしょ」
「そうだな」
「で、今日はどこに行くの?」
「どこがいいかな」
「……」
「どこかリクエストがあれば行くけど、俺としては……海に行きたいかな」
「海……?」
「そう」
「別に……いいけど……」
「はーい、じゃぁ決まりな!」
……
海……かぁ。
海って……行ったことないかも……
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