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第54話

「嫌なこと聞いちゃった?なら流せばよかったのに」 「……流せないだろ」 「そう?」 「そうだよ。急に好きとか言われたらそんな余裕ないだろ」 「だって好きにも色々あるじゃん?人として好きとかLoveの好きとかさ」 「……」 「野宮さん分かりすぎ〜」 「ったく、そんな生意気なこと言ってお前は」 「だって本当のことだよ。僕ね野宮さんのこと好きだもん。じゃなきゃここに来てないし」 にっこり笑いながら、足元の湿った砂をぎゅっぎゅっと踏みしめ、わざと足跡をつけてみた。 到着した時よりも風が強くなってきていて、寒さが増している気がする。 野宮さんの背後から騒がしい程の波音が聞こえるので、喋るのも自然と大きくなってしまう。 「そうですか。それは光栄だな。……じゃぁ宮ノ内のその好きは、LikeなのかLoveなのかどっちだ?」 「えー!それはここではちょっと……」 「は?ぶさけんな!こら!」 「あっはは!野宮さん面白いね!あーーーー!後ろ後ろっ!!」 「え、うわっ!!!」 ザーーー!っと容赦ない波が押し寄せ、あっという間に野宮さんの足元を白波が飲み込んでしまった。 逃げ遅れた僕の片足も濡れてしまい、靴がびちょびちょだ。 「うっそ!!マジかよっ!」 「冷たーっ!うわ〜野宮さん大丈夫……じゃないよね」 「しまった。これは……予想外だな……」 「ごめん、僕がもっと早く波に気がついていれば良かったのに」 「いや、宮ノ内が気にすることじゃない。車にタオルがあるから戻るか。それに風も強くなってきたからな」 「うん」 靴と靴下をその場で脱ぎ歩き出すと、野宮さんが急に笑いだした。 「あはは、さっきの波凄かったな。あんなのとっさに避けられないだろ。潮が満ちてきたんだな」 「そうみたいだね。砂浜が減ってきた気がする」

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