57 / 77

第57話

「……つ、伝わった……十分伝わったから」 「本当?嘘つかない?」 「つかないよ……こんな時に嘘ついてどうするんだ」 「じゃあさ、ちゃんとこっち見て言ってよ」 向かい合っているのに、野宮さんはさっきから僕と目を合わせてくれない……それが不満。 ! ぎゅ…… 無理やり顔を見ようとしたら抱きしめられ、僕は野宮さんの腕の中にいた。 あたたかい胸の鼓動はとても早くて煩いくらい鳴り響く。 ……すご…… 胸の鼓動を聞きながら大きな胸に抱かれていると、気持ちが落ち着いてきてくる。 気を抜くと寝てしまいそうなくらい心地よい。 ……変なのこんなに落ち着くのに胸が締め付けられるこの感じ…… 詩に抱きしめられる時もこんな感じだけど…… …… 少し違う。 「あ、あのな……ぶっちゃけて言うけど、俺はおじさんだ。宮ノ内よりもかなり年上なんだよ。宮ノ内の気持は勿論嬉しい。……俺も同じ気持ちだ。だけどだからと言って素直に受け入れられる勇気がまだ俺にはない。それに宮ノ内には好きな奴がいるだろ?」 「……」 「前に会ったことある詩って人のことが好きなんだろ?」 「うん、好き」 「……だったら……」 「詩は好きだけど、野宮さんも好きだよ」 「……あのな」 「勘違いしないで。僕にとって詩の存在は絶対的な存在なの。生まれた時から生まれる前から一緒にいるんだよ?親より兄さんよりも一緒にいる時間が長いんだ。僕が寂しがらないようにいつもそばにいてくれたし、愛しくて恋しくてずっと心の支えになってる」 「……そうか」 「そうだからね、今日ここに来て、野宮さんに好きだって素直に言えられたのは詩のおかげなんだ」 「……は?」 「あはは、おかしいって思うでしょ?だけどそうなんだ。詩がね、いけいけー!って応援してくれたんだ。わかるかな?背中押された感じだった。詩はね、僕の一番の味方だし、一番の理解者なんだ」 「……そ、そうなのか?」 「うん。だって野宮さんの事絶対欲しいって思ったし。僕、自分の気持には正直なんだ。その気持ちを詩はきっと大切にしなよって言ってくれるし、応援してくれるはず。詩は詩。野宮さんは僕のモノ」

ともだちにシェアしよう!