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第59話

野宮 まさかの事態過ぎて、思考が停止したことは言うまでもない。 な、 な、 な、 ? 何が起きているんだ。 その瞬間に手にしていたドリンクなど消え去っていた。 触れる唇……体温…… 宮ノ内とキスをしているという事実を理解するのに数秒かかってしまった自分が情けない。 彼の柔らかい唇と舌が積極的に俺を誘っている。振り払うことだってできるのに、それができなかった。 甘い…… 重なる唇から溶けてしまいそうなくらい熱が上がっていく。 ヒヤリとしたのは初めだけで、吐息混じりのキスは直ぐにあたたかなものへと変わっていった。 味わってしまったらもう離すことができない。 もっともっとその奥を味わいたくて夢中になってしまった。 零れる吐息すら勿体無いくらい、宮ノ内とのキスは甘かった。 身体に回し抱き締めるその細い腕。 抱き締めると細身の身体のラインがよくわかり、衣服の上から触れているのがじれったくなってしまう。 素肌で触れたい衝動に駆られ、このエロおやじ!とふと我に返った。 第一この子には本命がいるではないか。そう思うとギリギリのところで理性を保てることができた。 萩生詩。 実は彼にはその後一度会っている。 信じられないが、学生かと思っていた彼が俺の一つ下だということも教えてもらった。 信じられなくて運転免許で確認させてもらったくらいだ。 ……確認したけど未だに信じられない。 その時に詩という彼がとても宮ノ内のことを大切にしているということを知ることができた。 恋愛対象ではなく、家族として愛しているということも。 そして、そんな彼が宮ノ内の兄の恋人だということも…… …… あの兄貴はヤバいだろ…… 宮ノ内がとても大事にされているのはわかるし、容姿にも恵まれている。 まだ少年の彼が放つ可愛らしい色気は人の心を惹きつける。 けれどあの兄貴のクールで完成された男の美しさには太刀打ちできそうにないし、あの二人の間に割り込める隙間は難しいだろう。 それでも宮ノ内は一途に彼のことを想い続けている……そう思ったら切なくてたまらなくなったし、俺はその想いを大切にして欲しいと思った。

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