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第71話
野宮
まだまだ先の事。
そう思っていた。
つき合うようになってから色々な場所へ行き、デートしてとても有意義なひと時を過ごした。
遊園地や映画館、動物園にも行った。
霖は受験生でもあるので、勉強を見てあげたりもした。
霖と一緒にいると、自分が若くなったような感覚になるし優しい気持ちになる。
忙しい仕事の合間に何とか休みを作り、そのほとんど霖と過ごした。
俺の家で料理をして一緒に食べたり昼寝をしたり……そんな何気ない日常も楽しくて仕方がない。
正直言って、超幸せってやつだ。
……しかしそんな幸せな日常でも、危険なときは何度もあったけど。
危険といっても、犯人は確信犯のこの恋人だ。
自分の魅力を前面に出して誘ってくるから全く!!
そういう行為はしないって言っているのに!!
この小悪魔というか悪魔だあれは!!!
そう思わずにはいられなかった。
……キスも禁止にすればよかったと何度思ったことだろう。
そんなこと無理だとわかっているけれど、霖はたびたび我慢できないように色っぽく俺を誘惑してくるのだ。
特に夏場は本当にヤバくて、心折れそうになった。
汗を掻き、シャツをワザと脱ぐ霖の濡れた白い肌……色っぽい鎖骨や胸細い腰……誘う瞳。
襲ってもいいんだよ?というTシャツ&短パン姿でのお昼寝タイム!!
……このガキ、完全に事故を狙っている!!
耐えろ!野宮碧人!!どんなに美味しそうでも今は耐えるしかないんだ!!
心が折れそうになったけれど、心頭を滅却すれば火もまた涼し!!
修行僧のように武士のように日々耐え続けたのであった。
……
……
「これ」
「……」
「これが目に入らぬか」
「はぁ……見える。ちゃんと見えてるよ。卒業証書だろ」
「そ」
「卒業おめでとう。霖」
制服姿、サラリと靡く髪は相変わらず綺麗で、長い睫毛に覆われた涼し気な瞳がこちらをじっと見下ろしている。
今し方、俺はこの可愛い恋人にどん!と押し倒され、自分のベッドの上に仰向けにされてしまっていた。
その俺の上に馬乗りになり、見下ろしている彼の手には先ほどの卒業式で貰った卒業した証が握られている。
ずっとずっと……式場で見ていた。
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