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第6話

紘二の指先が俺の頬に触れた。 少しだけひんやりしてて、身をすくめる。 「冷たい…」 「あ、ごめんね。外、少し涼しくて。」 「季節の変わり目だからな。夜は少し冷える。」 「冷えるといえば、夜はちゃんと足を温かくしていた?僕の目が無いと稑くんすぐにおさぼりするから。」 思わずギクッとした。 顔にも出てたんだろう。 紘二の目が疑い深くじっとりしている気がする。 「し、してた!」 「本当に?」 「おい、早々に説教かよ。」 「まさか。念の為の確認だよ。」 「…紘二。」 「うん?」 人差し指でちょいちょいと紘二を呼ぶ。 紘二はなんだろうといった様子で距離を詰めた。 俺はカウンターに手を置いて、少し身を乗り出す。 そして、軽くキスをした。 ほんの少しのキスのつもりだった。 すぐに離れる筈だった。 離れられなかったのは、紘二の腕が俺の後頭部に回ったからだ。 そのままがっちりホールドされて動けなくなった。 身なんて乗り出したせいで、腕一本で自分を支えた状態だ。 それを知ってか知らずか舌なんて入れてくるもんだから、腕が震えてヤバい… 「んン…ッ…」 1ヶ月ぶりのキス… 拒む理由は無かった。 舌を絡ませて、唾液が混ざり合う度に水音を立てる。 「ふ…ぅ…こー…じ、も…ッ…むり…」 腕が限界に近づき待ったをかけた。 ヘタレな紘二は、素直に後頭部に回された手をほどいた。 俺は、紘二のこういう優しいところが好きだ。 「ごめんね。でも、仕掛けたのは稑くんだよ?」 「分かってる。ほら、帰るぞ。俺は裏から出るから、お前はそっち。」 店の出入口を指差した。 「続きは帰ってからだね。」 「つ、続きってなんの事だよ。」 分かっててはぐらかす。 紘二は俺がはぐらかしてる事くらいお見通しだ。 「続きは続きだよ。僕は外で待っているから、稑くんも早くおいでね。」 そう言うと、紘二はトランクの取っ手を持ち、ガラガラ言わせながら、カランカランと扉を鳴らして店を出て行った。 「ったく、トランクの音だのベルの音だの、騒々しいヤツ…」 苦笑しながらカウンターを出て、出入口に鍵を掛け、店内の電気を消した。 冷蔵庫からパンナコッタを二つ取り出してケーキボックスに詰め、休憩室でコックコートを脱いでロッカーに仕舞った。 小林君を信用していないわけじゃないけど、一応ロックが掛かっているかの確認も忘れない。 靴箱から靴を取り出したところで、電気を消した。 裏口に出ると人感センサーが反応して扉を照らした。 鍵を掛けて、確認の為ドアノブをガチャガチャと二、三回捻ってから、狭い裏道から大通りに出た。

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