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お持ち帰りの相手は……
シャワーを浴び終わると、リビングのソファで頭を抱える町田の姿があった。
金髪にピアスの、一見チャラ男。
大学では、いつも男女問わず友達に囲まれてた。パリピみたいな感じだ。
俺はそういうパリピっぽい人は苦手だったから、同じ大学に留学して、しかもルームシェアまですることになって不安だったけど、案外話しやすくて驚いた。
「あー、まだ頭痛てぇ……」
「町田」
「真尋!お前、外国で朝帰りとかやべぇな」
「開口一番がそれか……」
「で、どんな女にお持ち帰りされたの?」
ニヤニヤと聞く町田に、俺は「……内緒」と答えるしか出来なかった。
まさか、男にお持ち帰りされたとは、言えない。
「あ、もしかして、男にお持ち帰りされたとか?」
俺は冷蔵庫から取り出した水を飲もうとして吹いた。
「え!マジで!?本当に男だったの!?」
「な、何で……」
「だってこの街、ゲイが多いことで実は有名なんだぜ?知らなかった?」
「まじか……知らなかった……」
「ゲイバーも多いしさー」
覚えてないけど、きっとゲイバーに迷い込んだ。
俺は、あのイケメンにお持ち帰りされてしまったんだ。
……キモいおっさんじゃなかっただけ、マシだったのかな。
俺はホロリと心の中で泣いた。
『なになに?何の話してるの?』
電話をしていたらしい劉さんは、スマホを片手にリビングにやってきた。
『聞いてよ、劉さん!こいつさー』
『バカ!やめろ!!』
家で大騒動した後、三人は大学に向かった。
今日は大学の登校日初日。
ルームシェア自体は一週間前から始まっていて、劉さんとも町田ともすっかり打ち解けている。
二人のコミュニケーション能力が高いのもあるけど。
俺と町田は語学留学のため、他の語学留学生達が集まる教室に行った。
劉さんは、実は建築学専攻で、1年間この大学で学ぶらしい。
その後、アメリカの大学院に行って、中国にある外資系の建築会社に勤めて、世界で働きたいのだと教えてくれた。
夢が大きいけど、それを努力して叶えようとしている劉さんはすごい。
それに比べて、俺は……。
「おい、真尋。この教室だぞ」
「え、あ、ごめん……」
「そんなショック受けんなよ。貴重な体験したと思ったらいいんだよ」
町田は俺がお持ち帰りされたことがショックだと勘違いしていたが、それもだけど、それ以上に自分がいかに目的もなく生きているかを思い知っていたことにショックを受けていた。
教室に入ると多種多様の国籍の留学生達が所狭しと座っていた。
俺は少し圧倒されながら、指定された席に座った。
前から2番目か……。
大学特有の階段状の教室。
前の扉から、先生が続々と登壇する。
ロマンスグレーの紳士然りとした背の高い男性が教壇に立つ。
大学のパンフレットに載ってた、この大学の学長だった。
『ようこそ、歴史と由緒ある我が大学へ。留学生諸君を歓迎する。
私は、ジョン=マクドネル。イングランドの歴史を研究している。
ここでは様々な分野の学問を学ぶことができる。ぜひ優秀な教員たちと交流しながら知識を吸収していってほしい。
長々と話すのは得意ではないので、ここで教員の紹介をさせてもらいたい。では、若い順にしましょうか……ギルバード教授から』
学長は挨拶を済ますと、一人の男性を教壇に立たせた。
金髪の髪をワックスで後ろに流し、細いフレームの眼鏡の奥にヘーゼルの瞳が見えた。
『初めまして。イギリス文学を研究しています。シン=ギルバードです』
俺は目を疑った。
今日の朝、隣で寝ていた見ず知らずの男が、今、教壇に立っている。
『シンという名前は、日本人である私の祖父、進三郎 から取ったものです。私にはイギリス人とスイス人と日本人の血が入っています』
シン=ギルバード教授は、ぐるりと見渡すように広い教室の端から端まで眺めると、俺と目が合った。
口角をあげて、薄く笑う。
『ここにはスイス人の方はいらっしゃらないみたいですが、日本人の方はいらっしゃるみたいですね』
俺、どうしよう。
先生にお持ち帰りされちゃった……?
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