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愛らしい君
昨日は大学も休みで、論文もやっと書き上がった為、久々に歓楽街に繰り出した。
私はゲイで、自覚したのは14歳くらいだった。
親や親しい友人には、自分がゲイであることを伝えた。
両親は『よく話してくれた』と否定せずに受け入れてくれて、友人も受け入れてくれた。
16歳の時に初めて恋人が出来た。
同い年の子で、可愛らしい子だった。
けど、三年付き合って別れた。
理由は、浮気をされたからだ。
そこから、なんとなく本命を作ることが怖くなって、ゲイバーに行っては一夜限りの恋人達と寝ていた。
大学教授になってからは、若い時ほど遊ぶこともなくなったし、馴染みのバーにしか行かなくなった。
久々にマスターに会うと、『シンが来なくなって、若い子達が店から離れていった。どうしてくれる』と冗談交じりに肩を叩かれた。
『論文がなかなか片付かなくてね』
『百戦錬磨のシンも論文は恋人にできないか』
そんな会話をバーカウンターでしていると、隣の席から「遊ぶって、何して遊ぶの?」と日本語が聞こえてきた。
『へぇ、日本人か、君。酔って辛そうだし、俺らの部屋でゆっくりしてかないか?』
『そうそう。ここじゃなくて、もっと静かな所で楽しもうぜ』
柄の悪そうな白人の男二人が、茶髪でふわふわのパーマがかかった青年を挟んで口説いている。
あの二人は、何となく危ないような気がする。
そんな勘が働いて、その二人に近づく。
『すまない。その子は、私の連れなんだ』
『あぁ?連れ?』
『何だよ、お前。俺たち、今この子と話してるだけど』
私は二人の間に挟まれていた青年の腕を取って、店を飛び出した。
二人くらい相手できない訳では無いが、店にも迷惑がかかるし、立場上警察沙汰は困る。
去り際に『今日の分はつけておいてくれ!』とマスターに言っておいた。
マスターも心得たもので、何も言わずにいてくれる。
青年はまだ10代後半くらいだろうか、背は170センチくらいで細身、かなり酔っているみたいで、私の体にもたれ掛かってくる。
「んぅ……ここ、どこぉ?お兄さん、誰?」
見上げてくる顔は酔いが回っているらしく、頬はピンク色に染まり、黒い瞳は潤んでいる。
「私はシンだ。君は?」
「俺は、真尋。俺……迷っちゃった……家、どこだろ……」
ぐすぐすと今度は泣き始めた。
まさか泣き出すとは思わず戸惑ったが、仕方なく自分の家に上げることにした。
「マヒロ、取り敢えずシャワーを浴びて……って、おい!何で脱いでるんだ!」
「だってぇ……体、熱いんだもん」
「だからって……」
マヒロは急に両腕を私の首に絡ませ、唇を重ねてきた。
久々の感触にドキッとしてしまう。
「お兄さん、かっこいいね……俺、男の人とキスするの初めて……」
にこりと笑う顔が愛らしくて、たまらなくなる。
こんな感情は、今まで遊んできた男達には湧かなかった感情だ。
「俺、友達にも置いてかれて、家にも帰れないし……寂しい……」
縋り付くマヒロの姿にプツリと何かが切れた。
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