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お誘い
劉さんに今までのことを全て打ち明けた。
ギルバード教授の家に酔って寝てしまったこと、教授に恋をしてしまったこと、全て。
『だから、朝帰ってきたんだ』
『うん……。教授の顔見ると、ダメなんだ。ドキドキして……』
『真尋、それはやっぱり恋だよ』
『やっぱり、そうなのかな……』
教授のこと考えると胸が苦しい。
図書館で会った時、本当はもっと話をしたかった。
けど、会うとドキドキしすぎて、何も話せなくなる。
『真尋、あと講義はどれくらいなの?』
『あと……2週間ないくらい……』
『あまり時間が無いね。真尋は、ギルバード教授に気持ちを打ち明けたい?』
『……できたら、打ち明けたい。このまま日本に帰ったら、後悔しそうな気がして……』
劉さんは自分の部屋から、一枚の広告を渡してきた。
それは近くの博物館の広告だった。
『シェイクスピア展?』
『友達からもらったんだけど、僕は文学には疎くて。君の方が、こういうの好きだろ?』
『今、教授の講義もシェイクスピアなんだ』
『Wow!!すごい偶然だね!……これで、教授を誘ってみなよ』
『ええ!?いきなり?で、できるかな……?』
劉さんは広告をぎゅっと手に持たせる。
そうだ。後悔しないためにも、やらなくちゃ。
次の日は金曜日で、今日誘わないともうチャンスはない。
ないんだけど……
『教授、ここの解釈なんですけど……』
『ギルバート先生!ランチ食べに行きましょうよ!』
『先生、明日の講義ことで……』
常に周りに人が居すぎて、全く話しかけられない。
質問には丁寧に答えてるけど、学生とは一定の距離を置いてるみたい。
ご飯は大学の自分の部屋でとってるみたいだし。
距離を取ってるってことは、この展示も一緒には行けないかもなぁ。
ダメもとで突撃してみようかな……。
講義が全て終わったあと、教授の部屋に行くと、留守の札が掛かっていた。
「はぁ……やっぱ、ダメかぁ……」
俺は肩を落として、呆然とその札を見ていると、後ろから「何がダメなんだ」と日本語で声をかけられる。
振り向くと、ギルバート教授が本を抱えながら、立っていた。
「ふぇ!?きょ、教授!?留守だったんじゃ……」
「図書館に本を借りに行ってた。用事があるなら、入ればいい」
教授はドアを開け、俺を部屋の中に迎え入れてた。
紅茶の匂い。整理整頓された部屋。
初めて二人きりで話した時はなんだか落ち着かなかったけど、今は落ち着く空間だ。
「それで、用事はなんだ?」
「あ……あの、教授はシェイクスピアを専門で研究されてるんですよね……?」
「?そうだが……」
うわー!何今更なこと言ってんだよォ!!
初めの方で言ってたじゃん!!
「あのあのっ、俺、教授の講義を聞いて、シェイクスピアに興味を持って……その、これを友達からもらって……」
心の中であわあわなりながら、劉さんからもらった広告を差し出した。
『シェイクスピア展……』
「俺と、一緒に行ってくれません……か?」
言った。
言ってしまった。
一緒に行きたいと。
ちらりと教授の顔を見ると、広告をじっと見ている。
裏まで見て……。
「この展示は、初日に見に行った」
「え?あ、そう、なんですね……」
そりゃ、シェイクスピアの専門家だもんな……。
見に行ってるよね。
「いつ見に行くんだ」
「え、あ、明日か明後日に見に行こうかと」
明日は土曜日で、明後日は日曜日だから、そこを狙ってみた。
もし、断られたら、一人で見に行こうかな……。
「明日は大学院で講義をしなくてはいけないし、明後日は午前中に学会がある」
う……じゃあダメじゃん……。
「あ、そうなんですね……すみません、じゃあ……」
「明後日の午後なら空いてる」
え。
空いてるって……。
「お昼の一時くらいでいいか?」
教授はスマホを開いて、スケジュールアプリか何かに予定を素早く入力した。
「はい……っていうかいいんですか?」
「君から誘ったんだろ?この前、一部展示替えがあったが、まだそれは見てないんだ」
「そうなんですね。じゃあ、あの明後日の13時に……博物館の前の公園で待ち合わせますか?」
「あぁ、それでいい」
教授は薄く笑った。
う……そんな顔で笑われたら、照れる……っ。
「あの、よろしくお願いします……」
俺はいたたまれなくて、すぐに教授の部屋を出た。
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