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期待しちゃう
浮き足立つ気持ちを抑えながら、早速劉さんに報告しようとフラットに戻った。
『ただいまー』
『おかえり、真尋』
『お!おかえりー真尋!』
劉さんと町田がリビングで寛いでいた。
『真尋、なんかニヤニヤしてね?』
町田が俺の顔を伺う。
『……いいことあったんだ?』
劉さんは、それだけで分かったらしく、ニコニコしている。
俺は『まぁね』と一言言葉を返した。
『何何、二人だけで内緒話?俺も混ぜてよー!』
町田だけがよく分かってないみたいで、駄々をこねるように騒ぎ始めたが、俺たちは『内緒!』と返事をした。
そのうち、町田にも話そう。
引かれるかもしれないけど、こいつは何となく大丈夫な気がする。
そして、約束の日。
……俺は、一時間も前からベンチに座って待っていた。
というより、町田が「誰とデートなんだ」とか「どこに行くんだ」とか色々問い詰めてくるので、見かねた劉さんが町田の気を引いて、俺を逃がしてくれた。
(本当にありがとう……。劉さん)
劉さんの気遣いに感謝だ。
公園のベンチに座り、少し人間観察をしてみる。
小さな子達が走り回ったり、そのお母さん達が見守りながら話をしている。
遊具で戯れる女の子達、それから仲の良さそうな老夫婦が手を繋いで歩いている。
それから、男同士のカップルも見つけた。
手を繋いでいる訳でもないし、パッと見、普通の友達にも見えるけど、纏う空気感というか……距離がなんだか違う。
教授を好きになる前の自分だったら、気づかなかったかもしれない。
いいな。
俺もあんな風になりたい。
けど……
『早いんだな』
聞き慣れた声が後ろから聞こえて、びくりと体を震わした。
振り向くと、ワックスか何かで後ろに流した金髪に、ベージュの夏物のジャケットを羽織った教授が立っていた。
『教授!?あれ?学会は??』
『今日論文の発表するはずだった教授が風邪で休んだから、早めに終わった』
『あ……そうなんですね』
教授は腕時計に目を通す。
12時20分だった。
『ランチは済ませたか?』
『いえ。まだですけど……』
『ファストフードでいいか?』
『はい……って、いいんですか?』
この前、学生がランチを誘ってたのを断っていたから、少し意外だった。
『君はいつも質問を質問で返すんだな。別に私は構わない。腹も減ったし』
そのまま公園近くのハンバーガーショップに入ることになった。
それなりに混んでいたけど、ピークの谷間なのか案外すんなり注文出来た。
席に着くと、教授はハンバーガーを大きな口でかぶりついた。
(結構ワイルドな食べ方するんだな……)
ハンバーガーの食べ方はだいたいワイルドになるものだけど、ギルバード教授ってナイフとフォークでご飯食べてるイメージだったから、これまた意外だった。
『食べないのか?』
『た、食べます!!』
俺も大きく口を開いてかぶりついた。
食べている間は無言で、少し気まずかったけど、食べ終わった後、少しだけ会話ができた。
『教授は、学生とはランチを取らないんだと思ってました』
『あぁ……あくまで教授と学生だからな。フランクな教師もいるが、私は一線を引いている。あまり学生とそういうことをしていると、何故か変な期待をされることがあるからな』
『変な期待……って』
『恋愛関係だ』
『恋愛……きょ、教授ってかっこいいですもんねぇ』
『……好きでもない奴から好意を寄せられても困る』
ズキッと心が痛む。
さっきから教授の言葉には刺があるような気がした。
『そろそろ行くか』
『はい……』
教授はそのまま俺の分のお盆とゴミを持って行ってくれた。
こういうことをスマートにできる人って本当にすごいし、やっぱりかっこいい。
さっきまで落ち込んでたくせに、こんな気遣いをされると変に期待してしまう。
教授に変な期待をしてしまう子の気持ちが分かる……。
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