13 / 44
告白したいのに
展示はシェイクスピア全集の貴重な初版本や挿絵など様々な観点でシェイクスピアの作品が展示されていた。
ロミオとジュリエットの有名なセリフ『あぁロミオ、あなたはどうしてロミオなの?』をなりきって言えるテラスなんてものも作られていて、結構面白かった。
しかも、シェイクスピアの専門家が隣にいてくれるおかげで、色んな解説や考えも聞くことができて、すごく満足のいく展示だった。
『あぁ!楽しかったです!博物館をこんなに満喫できたの初めてかも』
博物館の中のカフェでお茶をしながら、感想を言い合った。
『ところで君は、シェイクスピアの作品だと何が好きなんだ?』
『えーっと……』
ここは王道の「ロミオとジュリエット」と答えるべきか、「マクベス」とか?
でも、俺、悲劇よりも喜劇の方が好きなんだよな……。
面白いなって思った作品は……
『じゃじゃ馬ならし……が、面白くて好きです』
『じゃじゃ馬ならしか……』
商家の娘、カタリーナは熱しやすい女性で、誰にも制御出来ないじゃじゃ馬だった。そのカタリーナをペトルーキオという男が無理やり嫁にしてしまう。
じゃじゃ馬な妻を調教するために、結構酷いことをして最後には屈服させてしまう。
世の女性がみたら、反感を買いそうな内容だけど、当時の女性観やシェイクスピア自身の女性観が見えて面白いなと思ったんだ。
『シェイクスピアの初期の頃の作品だな。姉の情熱的な性格とは反対の妹の大人しい性格が対比されて面白いし、周りの男達が入り乱れるようにして妹を取り合うのも面白い』
長い足を組んで、紅茶を飲む教授がかっこよくてつい見入ってしまう。
こんな風に二人きりでお茶とかしてたら、確かに勘違いしてしまう子もいるかもな……。
『何か私の顔に付いてるか?』
『え!?いや……何も……』
見すぎてしまった……。
な、何か話題を変えなきゃ……。
『あの、教授のおじいさんって、日本人なんでしたっけ?』
『あぁ』
『おじいさんの時代ってちょうど戦争中ですよね。よく国際結婚できましたね』
『あぁ……戦争中捕虜だった祖父は、軍の病院にいた看護師の祖母に惚れたんだそうだ。終戦後、日本に戻った祖父は祖母のことが諦められず、イギリスに渡り、周りの反対を押し切って結婚したらしい』
『教授は……もし、外国人を好きになったら、国際結婚とか考えますか……?』
こんなことを聞くつもりはなかったんだけど、つい口をついて出た。
『本当に好きになった相手なら、人種や国籍は関係ないと思う。だが……』
カチャリと教授はティーカップを置いた。
『私は今、特定の相手を作るつもりはない』
告白する前に、断られているような気がした。
何とも重たい空気が流れた。
『そう、なんですね……』
ただ、そう返事をするしかなかった。
教授と別れ、フラットの自室に戻り、ベッドにダイブした。
『特定の相手を作るつもりはない』って……。
「それって、恋人は作らないってことだよね……」
今日告白するつもりはなかったけど、出鼻をくじかれたような、そんな感じだ。
「うううう~」
俺は枕に頭を擦り付ける。
もう、このまま気持ちを伝えない方がいいのかな……。
どうしたらいいのか、わかんなくなっちゃったよ。
ボロボロと涙が零れてきた。
辛い。
恋ってこんなに辛いんだ。
教授のこと、思えば思うほど、辛くなる。
博物館にいる時はあんなに楽しかったのに……。
トントンとドアをノックされ、劉さんが顔を出した。
『真尋、お茶を入れたんだけど……って、真尋泣いてるの?大丈夫?』
『劉さぁん……』
拭った涙がまたボロボロとこぼれ落ちた。
劉さんは、ティッシュで俺の涙を拭うと、優しく『話、聞こうか?』と言ってくれた。
やっぱり劉さん、優しい。
ともだちにシェアしよう!