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勇気を振り絞って

大学での留学期間も残すところ一週間。 タイムリミットが迫っている。 昨日の天華さんの言葉をずっと考えてたけど、やっぱり教授のことは好きだし、このまま帰っても後悔する。 想いを伝える。 そういう決心をした。 言うなら、今日だ。先延ばしにしても何もいいことは無いし……。 講義はいつも通りに進み、講義の後はいつものように教授の周りに学生が集まって質問をしている。 人だかりが消えて、教授が教室から出ようとしたところを捕まえた。 『ギルバード教授!』 『……何だ?』 『あの、昨日はありがとうございました』 『いや、こちらこそ』 『……今日の夕方って空いてますか?』 『夕方?4時からならいるが』 『お話したいことが、あります』 今、俺どんな顔してんだろ。 すごく強ばった顔してるかも。 『分かった。部屋で待っている』 教授はそれ以上何も聞かずに返事をしてくれた。 「真尋ー!一緒に帰ろうぜ」 町田が講義が終わって、声をかけてくれた。 今は15時半だった。 「ごめん、町田。俺、ギルバード教授の所に行かないと」 「ギルバード教授?何?講義の質問?」 「えっと……なんて言うか……」 俺が言い淀んでいると、「あぁ……」と何か得心したように町田は頷いた。 「デートか!」 「な、何で、そうなるんだよ!」 鋭いのか、鈍いのか……よく分からないぞ!町田!! 「え?だって真尋、あの教授のこと好きなんだろ?」 町田はこてんと首を傾げる。 「ななな、何で……」 「真尋、動揺しすぎ!講義の時熱っぽく見つめたり、ため息ついたり、バレバレだっつうの。恋する乙女みたいな」 町田は面白がるようにケラケラ笑う。 このやろう、人の気も知らないで……。 「でも、まぁ頑張れよ!お前、一度経験済だし」 「あ、あれは違くて……」 教授との出会いは、それからなんだけど……。 掘られてはいないはず。きっと。 「教授ってゲイらしいしな」 「え!?それ、本当に!?」 「あぁ、結構噂になってるらしいよ。あんなにかっこいいのに浮いた話も無いし、女に興味もないみたいだし」 「そうなんだ……」 そうだ。俺との出会いもゲイバーだったし……教授、ゲイなんだ。 「真尋?」 黙って考え込んでいると、町田にのぞき込まれた。 「町田、俺……教授の所に行ってくる」 「うん。頑張れよ」 肩を叩かれる。 軽く見えるけど、町田って話聞いてくれるし、ノリはいいけど、空気読めるし、良い奴だよな。 教授の部屋の前で深呼吸をする。 廊下は静かで、誰もいない。 本の匂いがするけど、ギルバード教授の部屋の前はほんのり紅茶の香りがする。 俺は思い切って、ノックをした。 俺が開ける前に、ドアが開いた。 教授はドアを開けながら、俺を見下ろすように立っていた。 『どうぞ』 『……失礼します』 俺は紅茶の香りに引き寄せられるように、部屋に入った。 教授は札を『留守中』にして、鍵をかけた。 二人っきりだ。 「紅茶、飲むか?」 教授はまた日本語で話しかけてくれた。 教授は分かっている。 俺が、聞かれちゃいけないことを話すことを。 「いいです。言わなきゃいけないことも、飲み込んじゃいそうだから」 「えらく、怖い顔をしているな」 すごく強ばった顔をしているのは、自分でも分かっている。 けど、当たり前だ。 今から告白するのは、女の子じゃない。 年上で、自分の先生で、外国人で……同じ男なのだ。 「俺、ずっと言おうか迷ってたんですけど……ギルバード教授が好きです」 言った。言ってしまった。 教授は、その言葉にじっと耳をすましているようだ。 「……特定の相手は作らないと言ったはずだが」 静かな強い言葉に、怯みそうになったけど、せっかくここまで言ったのだ。もう少し攻めてみる。 「じゃあ、どうして俺と展示を見に行ってくれたんですか!?」 「それは……」 教授の目線が泳いだ。 少し動揺しているようだ。 「教授も、もしかして……俺のこと……」 自惚れもいいところだけど、行けるところまで攻めてみたい。 後にも先にも、これが最後なんだから。 「違う」と教授は静かに言い切った。

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