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ひどい男
教授は、俺を壁際まで迫った。
「あの時、どうして私がバーにいたか分かるか?」
「バーって……」
「君が酔いつぶれていたゲイバーだ」
教授がどうしてゲイバーにいたかなんて、そんなの知らない……。
教授がゲイなのは噂で聞いたけど、そこがどういう所なのか分からない。
「……一夜の相手を探していた」
「一夜の、相手って……」
それって、Hする相手を探してたってこと……?
「あそこは出会いを求める場所だ。君はそこで酔いつぶれて、君が私を誘った」
「か、介抱してくれたんですよね?俺と教授は何もなかったんですよね……?」
何も間違いはなかったはずだ。
酔って前後不覚になってる人を襲うなんて、教授は絶対にしないはずだ。
「何も無かったなんて、どうして言える?」
壁に追い込まれた俺の耳元で、そう囁かれる。
教授の息が耳にかかって、体が熱くなる。
「私はあそこの常連だ。今はそれほどじゃないが、昔は色々な男と一晩だけ関係を持っていた。それこそ取っかえ引っ変えな」
「そんな……」
「君が酔いつぶれていた時、ラッキーだと思った。おまけに君は酔うと誘い癖があるみたいで、私にべったり甘えてきた。目の前にご馳走をチラつかせられたら、我慢なんてできない」
ギルバード教授はいつもの英国紳士のような落ち着いた瞳ではなく、獣のようなギラギラとした瞳で俺を見ていた。
じゃあ、あの晩は……俺、本当に教授と……。
「一夜だけの関係だ。それを本気にされては困る」
一夜だけの関係。
そんな……ひどい。
涙が溢れてきた。
教授、俺は本当にあなたが好きだったのに。
教授は静かに扉を開けた。
『気をつけて、帰りなさい』
もうここには来るなと、そう言われているようだった。
潤む目を必死で堪え、部屋の外に出た。
扉は静かに閉じられ、教授との関係もこれで全て終わったのだ。
良かったのだ。
これで。
想いは伝えた。
教授はひどい男だった。
男好きで、ゲイバーでナンパした相手と誘い誘われるまま、一晩を過ごすのだ。
誘った俺も悪いけど、でも酔った相手を襲うなんて……ひどい人だ。
それなのに、どうして、どうして俺は
こんなに胸が痛むの……?
フラットの帰り、自室に閉じこもった。
俺は夕ご飯も食べず、ただひたすら泣いた。
もうこれで最後なんだ。
想いを伝えた。
その結果が、これだった。
ひどい結末だけど、これで心置き無く日本に帰れる。
心置き無く、忘れられる。
雨が降ってきた。
窓を打つ雨音はだんだん激しくなっていく。
どうか、雨と一緒に、あの人の面影を流しさって……。
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