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嘘
次の日、初めて大学を休んだ。
教授と顔を合わせたくなかったのと、知恵熱だろうか、一気に熱が上がった。
「大学には俺が伝えておくから、お前は寝てろよ」
「ごめん……町田。でも、俺風邪とかじゃないから、学校行くよ……」
「だーかーらー!倒れたりしたら、それも面倒だろ!?大人しく寝とけ!」
無理矢理、町田にベッドに押し込まれ、しばらく横になることにした。
夜中に泣き続けたからだろうか?
知恵熱なんて出したことなかったのに……。
「最悪……」
教授とシェイクスピア展に行った時が懐かしい……。
楽しかったなぁ……って、また教授のこと思い出してるし。
「恋煩いってやつなのかな……。最悪だ……」
忘れたいのになぁ。
クッションを抱きしめ、ぼんやり横になっていると、いつの間にか寝てしまった。
昨日はあまり寝られなかったからかもしれない。
夢の中、教授が出てきた。
ふかふかのベッドの上で、教授はいつも上まで止めてるワイシャツのボタンを外しながら、ベッドで寝ている俺の唇にキスした。
「好きだ……マヒロ……」
俺も……俺も好きだよ。
覆いかぶさる教授の首に腕を回そうと腕を伸ばした。
「シン……」
ファーストネームで呼んだ声は相手には届かず、伸ばした腕も誰にも届かないまま、目が覚めた。
まだ、未練があるのかな。
あんな振られ方したのに。
喉が乾いたため、ベッドから降りて、ダイニングに向かう。
町田も劉さんも大学に行っているため、俺一人。
静まり返った部屋は何だか寂しい。
冷蔵庫を開けて見るが、ミネラルウォーターはもうなかった。
ミネラルウォーターが入ったビンを少し降ってみるも増えるはずもない。
熱を測ると、もう下がっている。
スーパーで買いに行こうかな。
時間ももうすぐ夕方。少し外に出ても大丈夫だろ。
俺は家の鍵と財布をポケットに突っ込んで出かけることにした。
いつの間にか雨が降っていたらしく、石畳の歩道は濡れている。
スーパーに着くと、ミネラルウォーターと牛乳、パンやシリアルを買った。
レジに通し、エコバックに品物を詰めていると、隣のおじさんに「Hey!」と声をかけられた。
『君、シンのとこの子猫ちゃんだろ?』
『こ、子猫ちゃん??』
シンって、ギルバード教授のことだよな。
この人、誰だろ。
『えっと、あなたは誰?』
『あの時、君結構酔ってたから、覚えてないか。俺はジョージ=アダムス。すぐ近くにあるバーのマスターだ。よろしく』
背が高く、がっちりとした体型。
大きな手で握手されると、何だか自分の手が小さく見えた。
『あ、マヒロ ヤマオカです。よろしく。……あのそれで、何で俺のこと知ってるんですか?』
『何でって……そりゃあ、君は俺のバーで酔いつぶれてたからだよ。職業柄、顔を覚えるのは得意なんだ』
ふふんと得意げに話すジョージ。
そっか、この人ゲイバーのマスターか。
『君だろう?百戦錬磨のシンから逃げ出したっていうのは』
『え?』
逃げ出したってどういうことだろう。
確か、シンは俺をナンパして、家に連れ込んで……その、え……Hなことしたんじゃなかっただろうか。
『いい所で逃げられたって、どういうこと?俺、シンに誘われて、家に連れてかれたんだよね?』
ジョージは俺の問いにキョトンとしている。
「何を言ってるんだろう」と言う顔だ。
『誘われたというより、王子様に攫われたって感じかな』
お、王子様?
攫われた?
なにやら、教授から聞いた話と違うぞ。
『あの!その時のこと、教えてくれませんか?!』
『君が酔った時のこと?別に構わないけど……』
教授は俺に嘘をついたんだ。
どうして……。
どうして俺に嘘をついたの……?
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