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もう一度、会いたい

カフェでジョージから話を聞いた後、俺はとぼとぼと自分の部屋に戻っていた。 『あの時、君は男2人に絡まれててさ。シンが助けてくれたんだよ』 知らなかった。 教授はそんなこと、一言も教えてくれなかった。 『シンはマヒロみたいな子がタイプだからな……放っておけなかったんだと思う』 フラットに戻り、買ってきたミネラルウォーターをコップ一杯に入れ、一気に飲み干した。 そんなこと知らなかったと、ジョージに言うと、『シンは若い時にひどい振られ方をしてね。恋に臆病なんだ。真剣に付き合うことにトラウマを持ってる 』と言っていた。 真剣に付き合うことにトラウマを持ってる……だから、嘘をついた? 俺と本気で付き合うのは、怖いってことなのか。 今すぐ教授に確かめたい。 時刻は六時になろうとしていた。 大学にまだいるだろうか……、もう帰宅しているだろうか……。 教授は確か、隣町だ。 大学に行くより、そっちの方が近い。 「特定の相手を作るつもりはない」という言葉に怯えていたはずなのに、俺はもうすっかり教授に会いたいという気持ちの方が勝っている。 フラットを飛び出すと、劉さんとフラットの前で鉢合わせた。 『マヒロ!?もう体は大丈夫なの?』 『劉さん……もう熱も下がった。ごめん……今夜遅くなるから』 『待って……!もう夜だよ?どこに行くの?』 『先生に会って、確かめたいことがあるんだ』 劉さんの制止を振り切って、俺は隣町の方へ走った。 会いたい。 今はその気持ちだけで動いている。 教授の本当の気持ちはどこにあるのか、それを確かめたい。 確かめて……それでも、同じだったらきっぱり諦めよう。 教授の家は一軒家だったはず。 近くにバス停があって……その時に隣町だと気づいたんだ。 俺はそのバス停を見つけ、周辺を歩き、たまに人にも聞いて、教授の家を見つけた。 焦げ茶色の屋根に、赤茶色の煉瓦の外壁。 まだ家の明かりはついていないし、人がいる気配もない。 念の為、呼び鈴を押してみるも反応がなかった。 まだ、大学かな……それとも、ジョージのところに行ってるのかな。 もう仕事も終わってる時間だろうし、バーに寄っているのかもしれない。 俺は、財布からカードを取り出した。 『Three Royal Marines(三人の海兵さん)』というバーで、ここから近い。 教授には、あそこに近づくなって言われたけど……でも、今はそんなことを考えている暇はない。 「行かなきゃ……」 バーに近づくにつれて、何やらそういう雰囲気を醸し出してる人達が増えてきた。 この前は酔ってたから、あまり覚えてないけど……ちょっと怖いかも。 大通りを歩いていると、ジョージのお店が見えた。 ドアを開けると、オレンジの柔らかい照明の中、お客さんが話している声が聞こえる。 うるさいわけでもなく、BGMもひっそりと聞こえるくらい。 意外と静かなバーなんだ……。 『マヒロ!いらっしゃい』 カウンターにグレーのランニングを着たジョージがいた。 太い腕には錨と誰かの名前らしいタトゥーが入っている。 『突っ立ってないで、こっち来いよ』 『う、うん……』 恐る恐る近寄り、カウンターのちょっと高めの椅子に座る。 『何か飲む?』 『あ……教……シン、まだ来てない?』 ここでは教授であることは言ってないのかもと思い、言いかけた言葉を引っ込めた。 『今夜はまだ来てないなぁ。毎晩通ってるわけじゃないからな。もう少し待ってみる?』 『そっか……もう少しだけ、待ってみる』 ジョージは俺の返事を聞いて頷くと、そっとグラスを置いてくれた。 オレンジ色の飲み物にグラスの縁には花が添えられている。 『あ、俺……飲むとすぐ酔っちゃうから』 『ノンアルコールカクテルだ。ウチは飲めない人にも対応している。それに、これはサービスだ』 そういってウインクされた。 いかつい人だと思ってたけど、優しい人なんだな。

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