19 / 44
もう一度、会いたい
カフェでジョージから話を聞いた後、俺はとぼとぼと自分の部屋に戻っていた。
『あの時、君は男2人に絡まれててさ。シンが助けてくれたんだよ』
知らなかった。
教授はそんなこと、一言も教えてくれなかった。
『シンはマヒロみたいな子がタイプだからな……放っておけなかったんだと思う』
フラットに戻り、買ってきたミネラルウォーターをコップ一杯に入れ、一気に飲み干した。
そんなこと知らなかったと、ジョージに言うと、『シンは若い時にひどい振られ方をしてね。恋に臆病なんだ。真剣に付き合うことにトラウマを持ってる 』と言っていた。
真剣に付き合うことにトラウマを持ってる……だから、嘘をついた?
俺と本気で付き合うのは、怖いってことなのか。
今すぐ教授に確かめたい。
時刻は六時になろうとしていた。
大学にまだいるだろうか……、もう帰宅しているだろうか……。
教授は確か、隣町だ。
大学に行くより、そっちの方が近い。
「特定の相手を作るつもりはない」という言葉に怯えていたはずなのに、俺はもうすっかり教授に会いたいという気持ちの方が勝っている。
フラットを飛び出すと、劉さんとフラットの前で鉢合わせた。
『マヒロ!?もう体は大丈夫なの?』
『劉さん……もう熱も下がった。ごめん……今夜遅くなるから』
『待って……!もう夜だよ?どこに行くの?』
『先生に会って、確かめたいことがあるんだ』
劉さんの制止を振り切って、俺は隣町の方へ走った。
会いたい。
今はその気持ちだけで動いている。
教授の本当の気持ちはどこにあるのか、それを確かめたい。
確かめて……それでも、同じだったらきっぱり諦めよう。
教授の家は一軒家だったはず。
近くにバス停があって……その時に隣町だと気づいたんだ。
俺はそのバス停を見つけ、周辺を歩き、たまに人にも聞いて、教授の家を見つけた。
焦げ茶色の屋根に、赤茶色の煉瓦の外壁。
まだ家の明かりはついていないし、人がいる気配もない。
念の為、呼び鈴を押してみるも反応がなかった。
まだ、大学かな……それとも、ジョージのところに行ってるのかな。
もう仕事も終わってる時間だろうし、バーに寄っているのかもしれない。
俺は、財布からカードを取り出した。
『Three Royal Marines(三人の海兵さん)』というバーで、ここから近い。
教授には、あそこに近づくなって言われたけど……でも、今はそんなことを考えている暇はない。
「行かなきゃ……」
バーに近づくにつれて、何やらそういう雰囲気を醸し出してる人達が増えてきた。
この前は酔ってたから、あまり覚えてないけど……ちょっと怖いかも。
大通りを歩いていると、ジョージのお店が見えた。
ドアを開けると、オレンジの柔らかい照明の中、お客さんが話している声が聞こえる。
うるさいわけでもなく、BGMもひっそりと聞こえるくらい。
意外と静かなバーなんだ……。
『マヒロ!いらっしゃい』
カウンターにグレーのランニングを着たジョージがいた。
太い腕には錨と誰かの名前らしいタトゥーが入っている。
『突っ立ってないで、こっち来いよ』
『う、うん……』
恐る恐る近寄り、カウンターのちょっと高めの椅子に座る。
『何か飲む?』
『あ……教……シン、まだ来てない?』
ここでは教授であることは言ってないのかもと思い、言いかけた言葉を引っ込めた。
『今夜はまだ来てないなぁ。毎晩通ってるわけじゃないからな。もう少し待ってみる?』
『そっか……もう少しだけ、待ってみる』
ジョージは俺の返事を聞いて頷くと、そっとグラスを置いてくれた。
オレンジ色の飲み物にグラスの縁には花が添えられている。
『あ、俺……飲むとすぐ酔っちゃうから』
『ノンアルコールカクテルだ。ウチは飲めない人にも対応している。それに、これはサービスだ』
そういってウインクされた。
いかつい人だと思ってたけど、優しい人なんだな。
ともだちにシェアしよう!