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修了式
あの日から三日後。
俺は1ヶ月の語学留学を修了した。
修了式は講義もなく、学生は各々担当教員から修了証書をもらう。
俺もシンから修了証書をもらった。
一人一人にコメントを言うシンは、表情はクールだけど、言葉は優しい。
俺の番だ。
『山岡くん。修了証書だ。毎日予習復習をしっかりして、素晴らしかった。図書館でも勉強して熱心だった。……日本に戻っても、その勤勉さで頑張って欲しい』
『……ありがとうございます』
誇らしいけど、もう学生として講義が聴けないのは、やっぱり残念だ。
もう少し、この大学で過ごしたかったなぁ。
修了式の後、シンに呼ばれて、教授室に行った。
紅茶の優しい香りに包まれながら、シンに迎え入れられる。
そして、『留守中』に札をひっくり返し、鍵を閉め、俺を抱き締めてくれた。
「シン……」
「マヒロ、語学留学お疲れ様」
「ありがとう。でも、シンの講義がもう聴けないのは残念」
「いつだって、講義してあげるよ。……マヒロは明日、日本に帰るのか?」
シンは少し寂しそうな顔をしていて、心の中がぎゅっとなった。
「あの、その事なんだけど、俺、まだ一週間は滞在しようと思ってて……その、邪魔じゃなかったら、シンと過ごしたいっていうか……一緒にいたいんだけど……」
「もちろん、構わないよ。むしろ嬉しいくらいだ」
「借りているフラットでの生活は、明日までなんだ。だから、ホテルかどこかに泊まろうと思ってるんだ」
劉さんは、まだあと半年建築学を学ぶために、あのフラットに住むらしい。
俺らが引き払った後も他の留学生と住むらしいから、お金の心配はいらないよって言ってくれた。
……本当に劉さんは逞しいな。
「ホテルなんて泊まる必要はないだろ。私の家に住めばいい」
「え!?……いいの?仕事の邪魔じゃない?」
ホテルに泊まって、シンと食事とか出かけられたらいいなぐらいに思ってたから、すごく嬉しい申し出だった。
「構わないさ。それに私も明後日から夏休みなんだ」
「そうなの?……嬉しいな」
我慢してるけど、ついニマニマしてしまう。
気持ち悪い顔してるかも。
「マヒロ、またそんな顔をして……」
「え……?」
俺が見上げると、シンの顔が近づいて、唇が合わさる。
角度を変えながら、口の中に舌を入れられてしまう。
シンとのキスは気持ちよくて、好き。
唇が離れると一本の銀の糸とように唾液が繋がって切れた。
「……シンは、すぐにキスするから……困る」
「困る?嫌?」
嘘。本当は困ってないし、嫌じゃないけど……恥ずかしいから「困る」なんて言ってしまった。
「……嫌じゃない」
シンの胸板に顔を埋める。
大きな声では言わなかったけど、「大好き」って小さく言った。
聞こえたかどうかは分からないけど、ぎゅっと抱きしめてくれたのは、その返事代わりなんだと、俺は受け取った。
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