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お別れ
パーティーは12時過ぎまで続いた。
沢山沢山話して、食べて、飲んで……気づけばベッドの上で倒れていた。
起き上がると、少しだけ頭が重いけど、吐き気とかはない。
今は朝の五時過ぎ。
初めはジュースを飲んでいたはずだけど、いつの間にかアルコールも飲んでいたらしい。
……ちょっと水でも飲みに行こうかな。
水を飲みにキッチンに行くと、劉さんがカチャカチャとお皿を洗ったりしてくれていた。
『劉さん?もう起きたの??』
『習慣で目が覚めちゃった。真尋は大丈夫?お酒も飲んで、眠たそうにしてたから、部屋まで送ったんだけど』
『……いつも、ありがとう。劉さん』
劉さんは本当に面倒見がいい。
バーで酔った時も心配して探してくれたり、シンのことで悩んでた時は相談に乗ってくれた。
『真尋、昨日はだいぶ酔ってたけど、気分悪くない?』
『大丈夫……だけど、喉が渇いてて、水を飲みに来たんだ』
冷蔵庫から、ペットボトルのミネラルウォーターを取り出し、飲み干した後、劉さんの洗い物の手伝いをした。
共用スペースはキッチンだけ明かりがついているため、まだ薄暗い。
『ねぇ、劉さん。天華さんと暮らしたいとか思ってる?』
気になっていたことを聞いてみた。
『勿論。暮らしたいとは思ってるよ』
『やっぱり、中国?』
『生まれ育った国が一番いいけど、天華が世界を股にかけて活躍しだしたら、そんなこと言ってられないかもしれない』
『……別の国で暮らすかもしれない?』
『んーそうなるかな。いずれにしても、天華の拠点に合わせるつもり。だから、今色々な経験を積んで、外資系の企業に入って、ある程度自由のきく所に行きたいんだよね』
話しながら、お皿を手早く片付けていく。
『すごいな……』
俺は、どうしよう。
シンと暮らすってことは、イギリスに来なきゃいけないってことなんだよな。
留学とは訳が違う。
『真尋は、教授とのことを悩んでいるのかな?』
『うん……今は一緒にいるだけで幸せだけど、いつかは、一緒に住みたい。けど、住むってことは、日本を離れないといけない』
劉さんはうんうんと頷くと、『でもね』と話し始めた。
『君が一人で決めることじゃないんだよ。教授と一緒に考えないと。教授は君のことを大切に思ってるはず。きっと今、最善な方法を考えてるはずだ』
『最善な方法……』
『今日から旅行だろ?楽しんで。君は一人じゃない。迷ったら、縋ることが出来る人がいるんだよ』
劉さんはすごい。
欲しかった言葉をすぐに言ってくれる。
『劉さん、今までありがとう。俺、劉さんと天華さんの夢、応援してる』
皿を拭きながら、間抜けだけど、涙を零した。
こんないい人達と出会えたこの瞬間が愛しくて、この瞬間が終わってしまうのが切なくて……泣いてしまった。
「忘れ物ないか?」
フラットの玄関の前で町田が、俺を見送ってくれた。
「うん。町田もありがとう。町田のコミュ力に、俺助けられた」
「俺の取り柄、それだけだから」
ヘラヘラと笑いながら、そう言う町田は、すこしかっこよかった。
「じゃあ、また大学で」
「おう。真尋、気をつけてな。また日本で会おう」
同じ学部でも、進路は多少違う。でも、また仲良くしてくれたら嬉しいな。
キャリーケースを引きながら、フラットを離れて、しばらく歩いたところにある公園の駐車場に着いた。
背の高い男が赤い車の隣に立っている。
「シン」と呼びかけると、ニコリと笑ってくれた。
「マヒロ、行こう」
車の後部座席にキャリーケースを積み込み、助手席に座った。
座り心地のいい座席に深く腰掛けると、すぐにシンにキスされた。
「シン……見られちゃうよ」
「私のだって見せつけたいんだ」
ヘーゼルの瞳はいつだって綺麗で、透き通っていて、その眼差しは熱くて恋しい。
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