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二人旅

次の日の朝、俺たちはロンドンに向かって車で走っていた。 ロンドンまでは車で一時間くらい。 ビックベンが見えてきたら、ロンドンの街並みに心が踊る。 人も建物もなんだかオシャレだ。 イギリスに来たばかりの頃、シャーロック・ホームズ博物館に行きたくて、まずはそこに行った。 コナン・ドイルゆかりの品や、ホームズ作品ゆかりの物がたくさん展示されていて、興奮したのを覚えている。 今回もその場所に行った。 「君がシャーロキアンだとは知らなかったな」 シャーロキアンとは、熱狂的なシャーロック・ホームズファンのことだ。 でも、俺はそこまで熱狂的なファンじゃない。 「シャーロキアンじゃないよ、ファンはファンだけど。好きなんだ。推理小説とかが」 「マヒロのこと、まだまだ知らないことばかりだ」 「俺だって……シンのこと、まだまだ知らないことばかりだよ」 シンは、石畳の歩道を一緒に歩きながら、肩を引き寄せた。 「いくらだって、教えてあげるよ」 こうやって、お互いの知らないことを穴を埋めるように知っていくんだ。 いつか、広大な地面になって、シンと繋がりあえたらいいな。 バッキンガム宮殿やグリーンパークなど、イギリスならではの観光地を巡り、カフェに入った。 コーヒーとサンドイッチ、フィッシュアンドチップスを頼んだ。 「急にロンドンに行きたいなんて、驚いたよ」 「外国なんてなかなか来られないから」 「明日はどうする?」 「明日は……分からない。急にフランスに行きたいとか言うかも」 出てきた料理をフォークで弄りながら、目線を合わせず言ってみる。 「勿論、ついて行くよ」 「イタリアは?」 「勿論」 「スペインは?」 「行くよ」 弄んでいたフィッシュアンドチップスを口に含み、咀嚼し、飲み込んだ。 「じゃあ、急に日本に帰るって言ったら?」 シンは一瞬曇った表情をして、困ったように笑った。 「……シン、ごめんなさい」 シンを困らせた。 シンは答えられない。 だって「ついて行く」なんて軽はずみなこと言えない。 変な約束をして、行けなかったら……傷つく。 俺も、シンも。 「君を待ってる。今はそれしか言えない」 思慮深い、シンらしい答えだと思った。 「俺、不安なんだ。皆、将来のこと考えてて……俺はまだ何も思いつかない。このまま何者にもなれず、時間だけが過ぎていくのが怖い。シンとこのままここにいられたらって思っても、絶対にそんなこと叶わないんだ」 町田や劉さんたちは、しっかり先のことを考えてて、俺は何も考えてない。 考えてるふりをしてるだけで、本当は何にも考えられないんだ。 「私も君といたいと思ってる。何者にもなれないなんてこと、ないと思うよ。君が望んでも、望まなくても、何かにはなっていく」 「望まなくても?」 「そう。望まなくても。……ねぇ、マヒロ。大学のうちに将来の全てを決めなくてもいいんだよ。遅れてから何になりたいか気付く人たちもいるんだ」 「でも……俺、シンと一緒にいたいよ」 「それが君の夢なら、私はとても光栄だな」 机の上の手と手が重なる。 そうか。今の俺の夢って、シンとどうやって暮らすかなのか。

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