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第3話

『こんにちは、久し振りだね。元気かな?』  冨手が神足の前から消えて、3年が経とうとしていた。神足が冨手に連絡を取り続けていているが、「既読」という2文字がつくのみになっている。  生きている。  ということだと神足は思う。もしかしたら、冨手ではない誰かがアプリを開いている。その可能性も全くない訳ではないが、冨手は割りとすぐに「既読」にして、返事を返してくれていた。 『既読 9:46』  神足は目を優しく細めると、スマートフォンを鞄へ仕舞った。テーブルに置かれたアイスコーヒーを飲む。半分ほど飲んだ頃だろうか。  1人の男性が応接間のドアを押し開けた。 「お待たせしてしまって、申し訳ありません」  早く丁寧な仕上がりに、締切前でも嫌な顔1つしないし、文句の1つ言わない。漫画家の要望も聞いた上で、要求以上の仕事振り。おまけに、原稿に関係なく、買い出しやちょっとした食事を作ったり、掃除をしたりということもやってくれる。まさに、スーパーアシスタントということで、神足は出版社を問わず、色んな作者から直接、声をかけられるまでになっていた。  そして、今、神足に詫びた男は少し寡黙そうな人物で、口数の多い冨手とは似ても似つかわない男だったが、漫画家だった。 「班目(まだらめ)、と申します」  差し出される手は筆マメだらけで、紙で指を切ったのか、筆が当たらない部分には絆創膏も貼ってある。勿論、今時は漫画家でもパソコンでの作業はするが、一回、直に紙へ描いてみないと! というのが拘りらしい。  そう言えば、ずぼらな性格ではあったが、冨手もそうだったと神足は思う。 「何か、おかしなことでも?」 「あ、いえ。すみません。あの『君をバッドエンドから救う話』の班目先生が意外とお若い先生で驚いてしまって。今日から先生のお手伝いをさせていただきます、神足拓海(たくみ)です」  神足は滑らかに言ってのける。確かに別のことも考えていたが、班目の第一印象はそうだった。  班目直澄(なおずみ)。  元々、少年誌の方で描いていた漫画家だったが、自身が年を重ねたこともあり、また様々なものを描いてみたいということもあり、幾つか名義を持って、作品を提供している作家だった。 「あ、デビュー作、読んでくれたんですね。高校の時から描いているので、10年くらいになります」  じゃあ、紹介はこれくらいで、と班目と神足はデスクに向かった。締切は明後日だが、班目は拘りが強い作家らしく、下手に複数人の、技量の違うアシスタントをつけると、それが返って気になって進まないらしい。神足に声が掛かったのはその辺りの事情があるらしかった。

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