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第4話
「神足さん! 神足さんじゃないですか!」
班目と仕事をして、数日後、神足は久し振りに繁華街の方へと足を伸ばしていた。
漫画家のアシスタントという立場上、深夜から明け方まで仕事をすることもあり、毎晩毎晩は飲めない。ただ、神足自身は飲むのは嫌いではなく、急ぎの仕事もなく、気分も乗っている時は1人でバーや居酒屋で飲んでいた。
「あ、先日はお疲れ様でした」
神足に話しかけてきたのは班目が出している作品の担当編集者の田口(たぐち)だった。傍らには班目もいて、秋物らしい薄手のセーターを着ている。
「神足さんも仕事が落ち着いて?」
「ええ、宅飲みっていうのは……その、何だか寂しくて……」
神足は多少料理の心得もあり、簡単なものならレシピを見て、アレンジをしながら作り上げてしまう。中でも焼きものが得意で、野菜があまり好きではない冨手にも美味い、美味いと食べさせていた程だった。
今ではだいぶ落ち着いたが、今でも料理を作れば、神足は冨手のことを考えてしまっていた。
好きな味つけや苦手な野菜の食べさせ方は勿論、恋人だったこと。DVのようなことをされたこと。自分の隣にはいなくなってしまったことも。
考えれば、それだけ考えるのを止められなかった。
「あ、いや、実は、料理があまり得意じゃないから『あて』もいつも同じになっちゃって」
「あ、分かります。分かります。僕も豆腐かスーパーで惣菜、買ってます。もし、良ければ、ご一緒しません? 僕らも今、打ち合わせが終わって、1杯やっていきますか? ってところだったんですよ」
田口は神足と班目よりも2、3歳若くて、社交的な男だった。神足は班目抜きに話が進んでいっているような感じで、最初は遠慮しようとしていたのだが、
「もし、迷惑でなければ、田口君も言うように一緒に飲みましょう。先日はすぐに仕事に入ってしまったし、ゆっくり話もしたいです」
と、班目も微笑むので、結局は3人でダイニングバーへ向かった。
「じゃあ、今後の班目先生と神足さんのご活躍とぉ、俺、田口勤(つとむ)の活躍を願って、乾杯っ!」
「乾杯」
「乾杯……」
1杯目は田口、班目、そして、神足も海外製のビールを思い思いに注文して、ジョッキを交わす。
ダイニングバーの壁にはベージュの煉瓦が敷き詰められていて、バーカウンターでは美しい女性バーテンダーがマティーニを作っているところだった。そして、本日は弾き手はいないらしいが、グランドピアノが店のど真ん中へ置いてある。
とそんな内装の店だった。
「ここは奥さんがバーテンで、旦那さんがコックなんですけど、どっちもいけますよ」
と田口が運ばれてきたテリーヌや生ハムのサラダを取り分けると、神足に手渡す。ちなみに、神足はこのバーへ来たのは初めてだった。
「へぇ、そうなんですね」
神足が普段行き慣れているバーと比べると、かなり良い部類のバーで、旬の野菜のテリーヌと海外製のビールの後で頼んだカクテルもかなり美味だった。
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