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第6話

「もしかして、神足さん?」  班目と田口とバーで飲んで、神足が酔い潰れた数日後、神足はアシスタント業を終え、出先から自宅へ帰る途中で住宅地の方を歩いていた。 「あ、やっぱり、神足さんだった!」  神足が声のした方へ振り替えると、笑顔で立っていたのは班目が出している作品の担当編集者の田口だった。もし、あの日と同じで、傍らに班目もいたら、なんて一瞬ドキッと心臓が音を立てたが、今日は田口1人のようだ。 「すみません。あの日は、田口さんにもご迷惑をかけてしまって」  神足は田口に頭を下げると、田口は「あの日?」と首を傾げる。だが、すぐに思い返したようで、「いえいえ」と穏やかな声で返す。 「あの後、気分が悪くなったりしませんでしたか?」 「いえ、あの後、班目先生にも聞かれましたが、全然そんなことはなくて。ただ、折角の打ち上げに水を差してしまって……」  神足の声はだんだんと尻すぼみになっていく。だが、田口も班目と同様に気にしないでください、と言う。 その上、編集者なんて仕事をしていると、もっと酷い目には遭ったこともあるという。 「某先生はお店で服を脱ぎそうになるわ、お店の女の子に抱きつきそうになるわ。あとは綺麗な話じゃないんですけど、盛大にげろって、僕の一番良いスーツとお店のカーペットを一瞬でダメにしたなんてことも……」  一頻り田口は今までに起こりに起こった酒の席でのことを言い、あの日の神足の失態など全然マシであるし、むしろ失態にすらならないことを伝える。神足は少しだけ笑うと、田口も笑った。 「実は、今日は神足さんにお話があって、この辺りまで来ていたんです」 「お話って私に、ですか?」 「ええ。できれば、立ち話ではなく、どこか、静かな場所できちんとお話しさせていただきたいと思っています。今、神足さんのお時間はいかがでしょう?」  田口の声は穏やかなままだったが、やや改まった口調に、少し緊張感のようなものが滲み出す。仕事モードになったというか、敏腕編集者らしい雰囲気だ。 「はい。もう家に帰るだけなので、うちに来ませんか? あ、お店とかじゃないといけなかったら、駅の方とかに行きますけど」  たった今、駅の方から住宅地へ戻ってきた神足がそう申し出ると、田口は神足の家へ行く方を選択した。

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