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第8話(R18)

『先生……』  1人の青年が先生と呼んだ男の前で着ているものを脱ぎ出す。小綺麗な顔立ちの青年の身体は顔とは違い、無数の火傷や鞭や棒か何かで打たれたような傷が広がっていて、見ている者の加虐心を煽る。 『それが君の受けた傷の全てか……』  先生と呼ばれた男は青年の身体をまじまじと見ると、普段は奥まって人に触れられることはない性器や蟻の戸渡り、肛門に至るまで文字通り、身体中を指や唇、舌先で愛撫する。 『あぁ、ダメ! せんっ。ダメっ! せんせっ』  穢れに穢れ、キズモノの自分のアナルを躊躇することなくキスをした上、仕事の道具でもある指を入れ、優しく快楽へ誘っていく。そのことに青年はダメだ、お願い、やめてくださいと拒み、申し訳なさと嬉しさとで苛まれながら何度も何度も身体を震わせて絶頂を迎える。 『ダメ、お願、い……先生……』 「ダメ、お願い……先生……か」  神足はカリカリと動かしていたペンを止めると、ラフで描いた最後のコマの青年の台詞を口にしてみる。青年は艶めかしく頬染めて先生に叫ぶ場面だった。 「あのバーでお話させていただいた時にも言われてましたけど、神足さんはお話を作るのがあまり得意でないとかで」 「ええ、その時にも言ったかも知れないんですけど、絵を描くのは好きです。ただ、ストーリーとか設定とかそういうのを考えるのは」  数時間前、田口にそんな風に切り出されると、神足は曖昧に笑う。すると、田口もにこりと笑う。 「ご心配なく、そんな先生も結構いらっしゃるんですよ」  と、田口は1つのケースを開けると、原稿用紙の束を取り出す。神足は「これは?」と言うと、数枚分、読んでみる。 「『ノーズ』の連載とは違うんですけど、僕が任されている作品の1つです。神足さんはBLやGLは描かれたりなんてことは?」 「ああ、どっちも知っている人とか知っている人の知っている人が描いていて、手伝いはしたことは……って、すみません。学生の頃の話で、最近はさっぱりなんですけど」 「成程。じゃあ、1から説明しなくて良そうですね。このうさぎのmimi先生はノーマルカプもBLもGLも一作品で書かれる先生なんですけど、班目先生くらい拘りがある先生で」  田口が先程とは異なり、苦く笑うと、「簡単に言うと」と口にする。 「その3つを描いたことがある人で、なおかつ、どのカプのクォリティーも高そうな人なんてなかなか難しいんです。どれかが突出して質が高くてもバランスが悪いし、もっと悪いことに先生は絵もそれなりに描ける人なので」 「はぁ」  だったら、なんでその先生は描かないんだろう、と神足は思うものの、聞いて良いものか悩む。だが、田口は実に察しの良い男で、ケロッと返した。 「ああ、詳しい経緯なんかは長いから伏せますけど、今は小説が当たっているからそちらに専念しているって感じですね」 「そうなんですね」 「それで、もう察しはついているとは思うんですけど、うさぎのmimi先生の作品をコミカライズする話が出ていて。神足さんの名前が挙がったんです」  ラフ画の中の青年はともかく、先生と呼ばれた男はコマを増すごとに班目に似てきていて、神足は溜息を吐いた。

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