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第13話

『そんな、どうして……!』  1人の少女を見て、主人公の少年が声を発する。シンプルな黒いワンピースからすらり伸びた細い足の少女のコマから少女の顔のアップへ移る。あどけない中にも、クールで美しいその表情が3人の少年達を凌駕している。 『私は希美(きみ)。そして、あんた達がバッドエンドと呼んでいた存在』  班目直純の処女作・『君をバッドエンドから救う話』。  タイトルにもある通り、『君をバッドエンドから救う』ということを信念に、少年達が様々な力を会得し、その力をもって世界を書き換えて希美という1人の少女を救う。だが、そのラストは救う対象の少女がバッドエンドそのもので、少年達は絶望という運命に飲み込まれてしまう、というようなものだった。  夢のないラストだと評されながらも、最後、主人公が友人の少年達と別れてバッドエンドへ飛び込んでいくのは神シーンだと神足は思っていた。  本来、ハッピーエンドなんてものは虚構の中だけのものなのだから。  野瀬との初対面の日、神足は東京にあるインペリアルホテルにいた。野瀬の泊っているというスィートルームは並のホテルのそれとはケタ違いに豪華で、洗練されていた。  本当は田口も同席してくれる筈だったのだが、急遽、社へ戻ることになってしまった。  神足は野瀬の部屋で、1人、ソファにかけて野瀬を待っていた。 「初めまして、ですね。野瀬、と申します」  バスルームの方から現れた美しい黒髪に、優しい声。  会いたいけど、会いたくない。  愛したいけど、愛せない男が野瀬と名乗り、そこにいた。 「花崎と野瀬は『ノーズ』で、班目名義で出しにくい作品とか息抜きに描く時に使っているんですよ、ほら、『Nose』って日本語だと『鼻』でしょ」  種明かしをするように、班目は口にするが、神足の耳には入ってこない。  何故。どういうこと。どうなっている。等々。  神足の頭の中には考えられる、ありとあらゆる疑問が浮かんで、野瀬を待つ為に腰をかけていたソファから勢い良く立ち上がると、強い立ち眩みがする。とても立っていることができなくて、座っていたソファに突っ伏してしまう。 「そんな、どうして、どうして、先生が……」

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