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第15話(R18)

「あ、先せ、んっ……」  ベッドのスプリングが程よく揺れて、班目の指が神足の髪や耳を撫でるように触れる。ジャケットやシャツといった衣服は剥がされていって、神足の身体はベッドシーツの滑らかさを享受していく。  だが、それ以上に班目の身体の匂いが神足の鼻へ、胸へと痛い程、迫ってくる。  かつて冨手に甘く、また、手酷く抱かれた時よりも。  神足自ら描いた『好きじゃない』のラフ画ごとく、班目そっくりの男に夢の中で抱かれた時よりも。  ずっと現実感があって、神足はまた意識していないと、泣き出しそうだった。もう何度となく、涙を流している気はするが、冨手に初めて痛めつけられた時と班目の前で酔い潰れて、優しくされた時。それに、先程の3回。神足は泣いてしまったが、それ以外は努めて泣かないようにしていた。 「大丈夫。今日は最後までするつもりはないから。気持ち良くなるだけ」 「気持ち、良くなるだけ……」  班目の意思表示に神足は安堵とも不安とも感じ、拙く反芻するのみになってしまう。すると、班目は「そう」だと優しく答えて、神足に選択権を渡してくれる。 「それに、さっきも言ったように、嫌ならそこにあるペンで俺の手を突いても良い」  ペンというのは、よくホテルのベッドサイドに備えつけてあるメモ用紙に添えてある万年筆のことだろう。神足は電気スタンドで鈍く照らされた金色の万年筆の方を見るまでもなく、首を振る。  あんなに素晴らしい作品を描く男の、手をどうして傷つけられるのか。  自分を優しく慈しんでくれた男の、手をどうして傷つけられるというのか。  ただ、神足が班目を止めなければ、班目の手は汚れてしまう。 「せんせ……い。まだらめ、せんせ、い」  飄々した口調とは裏腹に、追いすがるように神足を見つめる班目の目。手は勿論、班目が漫画家であることを除外しても、傷つけられない。だが、それにも増して、班目の心は傷つけられない。  神足は目の前の班目を傷つけたく、なかった。 「あぁっ」  班目は神足の着ていた服をボクサーパンツの1枚まで全て脱がし終えると、神足の陰茎を含む。神足の身体がベッドへ沈んでいくが、追いかけて逃がさないと言わんばかりに舌先で愛撫し始める。 「んっ……」  そんな班目に神足はこれ以上、甘い声を出しそうになるのを無意識に抑えて、弾力のある枕を掴んで顔を押し当てる。 「っ……っ……」  刺激され、快楽でどんどん硬くなってしまった蕾を柔らかくするように。  班目の舌は神足の腰の動きに合わせて動く。 「こおたり、さん。こお……」  神足と呼ぼうとして、班目の声が途切れる。神足の心は既に冨手から班目に移っているのに、身体の習慣というのは恐ろしい。 「コウ」  冷たさのある男の声に、冷たく見下ろされる目。  神足はその瞬間、身体が快楽という熱いものではなくて、恐怖とか、トラウマとか冷たいもので震えて、止まらなくなった。 「きもち……ぃ」 「神足さん?」  ただならぬ様子の神足に、班目は口から神足の陰茎を離す。確かに班目の愛撫で硬くなっていた筈のそれは体液を零すことなく、萎えていた。 「気持ち、良くない……」  神足は虚ろな目のまま、震える唇を動かす。  何を言っているんだ。  誰に言ってしまったんだ、と神足が思った時には既に言葉が班目の耳に届いてしまっていた。 「神足さん……」  班目は神足の身体を覆うように掛布団をかけると、部屋を出ていく。  あの神足が酔い潰れた時とは違い、班目は何も言わず、顔を背けて、出て行ってしまった。

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