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第一話
『君をバッドエンドから救う話』。
班目直純がこの処女作を世に出したのは15歳の秋だった。
圧倒的な画力、画期的な構成、溢れるオリジナリティ。
いずれも僅か15歳の、しかも、つい半年前には中学生だった少年には明らかに分相応ではなかった。
「本当に君が描いたの?」
と、言われたことも1度や2度の話ではなく、「これ、次回作にできたらって思っている話です」と何枚かの紙を渡す。
疑われることに慣れている班目には怒りもなく、かと言って、悲しいや寂しい、愚かな等、そんな感情もなく、淡々とラフ画を描いていく。
「何だか、班目君って天才だよね」
「俺は馬鹿だから分かんねぇかな」
そんな様子に周りはもはや疑いはしなかったが、別世界の人間だと班目の前に線を引き、誰も班目の方の世界へ入ってこようとしなかった。
「ねぇ、君が班目先生だよね? 班目直純先生」
班目はいつしか中学校を卒業したばかりの高校生から高校も卒業して、大学生になった。その日の班目もその日とて淡々とラフ画を描いていた。
しかも、編集者と喫茶店で打ち合わせしている途中で、編集者が少し席を外している最中に、だ。
「そうですけど、貴方は?」
傍目はどこにでもいるような大学生の班目は一瞬、止めた手を再び何事もなかったように静かに巧みに動かす。
声の主はそんな失礼とも言える班目に然程、気にした風でもなく続けた。
「ごめんなさい。以前、貴方をパーティーで見かけて、すぐに話しかけようと思ったんだけど、人に囲まれてしまって……」
声の主はうさぎのmimiというPNで漫画を描いている沢尻皇哉です、と爽やかかつ悪びれる様子もなく名乗る。
確か、班目とは連載している雑誌は違うが、同じ会社から出されている雑誌にてデビューし、連載をしている作家だと記憶していた。
「『君をバッドエンドから救う話』。毎週、読んでいて、ラスト、驚きました。あと、知らないうちに泣いてました。ああ、終わってしまった。これを描いた人にすぐに会いたいって思って」
沢尻がそこまで言った時、席を外していた編集者が班目の座る席へと戻ってくる。沢尻はそれ以上は班目との話を伸ばすことなく、立ち去る。
線が細く、作家というよりは子ども服のモデルや子役のタレントがそのまま大人になったような可愛らしい容姿に、無邪気な印象、そして、無邪気な挨拶を残して。
「また会いましょう、今度はゆっくりと」
班目が19歳、沢尻が21歳の秋だった。
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