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第二話

「班目先生!」  次に班目が沢尻に会ったのは班目が20、沢尻が21歳の冬だった。  時間としては1年どころか、3ヶ月も経っていなくて、彼らは思いの他、早い再会を果たした。 「えーと、初めまして、班目と申します」  と、班目は沢尻に言う。  再会、ということで、班目がする挨拶は適切ではないのだが、あの時の班目は殆ど沢尻を見ていなかった。  沢尻はまた然程、気にしていない様子で名乗る。 「初めまして、班目先生。うさぎのmimiというPNで恋愛ものを描いています、沢尻皇哉です」  多分、絵を描いていない時の班目は極めて常識的な人物で、どこにでもいそうな大学生なのだろう。  沢尻に向けられる挨拶や視線は絵を描いていた時の班目のものとは違い、丁寧で温かいものだった。 「班目先生」から「班目」、「班目」から「直純」と沢尻の呼び方は変わり、とうとう班目と沢尻が出会って、1年が経った。  班目作品の系統は『君をバッドエンドから救う話』を除き、ダークファンタジーかサスペンスを得意とするベテラン漫画家・能勢澄志(のせきよし)と組んでいることからサスペンスだった。それに対して、沢尻の作品は短編も合わせて3作程あるが、いずれも恋愛もので、系統は全く異なっていた。  ただ、 「いや、直純の今度の新作、面白そうだよね〜」  班目名義では描けない話を花崎瞳一(はなさきどういち)や野瀬澄純(のせきよすみ)で描き、いつもながら沢尻が絶賛する。沢尻は班目が描く作品なら何でも好きだった。  そして、班目自身を愛していた。 「でも、あの子、可哀想だったかな?」  班目が「あの子?」と次回作に考えている作品のラフを描く手を止めず、考えを巡らせると、沢尻は班目の手をそっと触れる。 「ほら、暗殺者の子。仕事と好きな人の命。僕ならどちらもとるか、どちらもとらないけど、まさか、仕事をとった後で、死ぬなんて……」  生きてこそ、好きでい続けてこその人生じゃないと沢尻は班目の唇を奪う。 「死んだ後の愛なんていくらあっても、寂しい。勿論、愛だけが全てなんて言わないけど、僕は直純が欲しい」  沢尻は班目からペンを取り上げると、班目の太腿に顔をくっつける。  こうなってしまうと、沢尻が引かないのを班目は知っている。班目は観念したようにラフ画を片づけると、沢尻とベッドルームに消えた。

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