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第十話
「あ、神足さん。起きたんですね。気分は悪くないですか?」
「ま、班目先生っ!」
酔い潰れた神足をタクシーに田口と2人で乗せると、斑目は運転手に自宅へ向かうように告げた。
そして、田口の分のタクシー代を込みで、運転手に支払うと、田口はそのままタクシーに乗って帰っていった。
アイスコーヒーではなく、ミネラルウォーターとグラスを持って、神足を寝かせたソファベッドのある部屋へ行く。斑目を見るなり、神足は慌てて、ソファベッドから飛び降りるので、斑目も慌てそうになるが、2人で慌てる訳にもいかない。
「す、すみません。先生にご迷惑をっ!」
土下座する勢いで、神足は頭を下げると、班目は良いのだと笑う。
「いえ、先日は仕事で少し無理をさせてしまったので、酔いが速く回ってしまったのでしょう。誰でもそうなります。気にしなくても良いんですよ」
班目は狂乱気味になっている神足に飲めそうなら、とグラスにミネラルウォーターを注いだ。その上、今日は遅いので、疲れが取れるまで休んで帰るように促す。
「で、でも……」
神足は申し訳なさと戸惑いでいっぱいという表情だったが、すぐに何でもない振りをしてグラスを受け取った。
「すみません、ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えさせていただきますね」
繕ったような神足の言葉に、班目はどう言ったものかと額に皺を寄せたが、「では」と出て行った。
だが、そのまま神足を残した部屋の前から立ち去ることはできずに暫く、立ち尽くしていると、斑目の耳には小さな声が聞こえてくる。
それは耳をすまさなければ、到底、聞くことができない声で、神足の苦しがるような泣き声だった。
「……」
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