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第十三話

『欲しいのなら欲しいという思いと同じくらい、手に入れる為の手札を揃えておくものだ』 『あとは打てる手は全て打つだけ』 『打ち方を間違ってくれるなよ。目も当てられない』  とポンポンと思いつく言葉を紙に書き殴った斑目は字を消すように線を引く。  線を引く時は有から無になり、人の仕草や台詞が浮かんでくる。 『君が望むなら野瀬の名前を使っても良い。野瀬清澄は君の名でもあるのだから』  作中の台詞のように、能勢は言って退けると、シガーを吸い続けていた。  野瀬清澄と斑目直純。  その2つの名前を使い、野瀬も田口も利用して、神足を絶対に手に入れる。 「できれば、もう1枚……手札が欲しい。切り札的な手札が」  そもそも、何故、神足は漫画家になることも、専属のアシスタントになることも拒んでいるのだろうか。  自分の腕に自信がない? 「いや、自信がないならそもそも、描いたものを提供することも難しいのではないか?」  少なくとも、神足は斑目の無理難題に応じて、この間、28〜32ページまでを背景からキャラクターの動きまで描いている。できるだけ斑目の作品に寄り添った背景に、キャラクターの動かし方をしていて、もしかしたら、斑目の作品をあまりよく読んでいない読者なら神足の描いた方を正式なページかと思うかも知れない。  あとは自分でイチから作品を作り上げるよりは色んな作品を携わりたいとかだろうか。 「それはあるかも知れない。でも……」  斑目は様々な可能性を考えているうちに、ある1つのそれに辿り着く。  それは誰かに遠慮しているという可能性だった。 「例えば、漫画家が神足さんの身近な人物で、神足さんがその漫画家の専属アシスタント。 最初はそれで良かった。でも、漫画家の仕事が上手くいかず、神足さんはその漫画家に遠慮して、漫画家にも専属アシスタントにもなれないのだとしたら……」  斑目は漫画家を『A』と紙に書くと、『神足さん』と書く。それから、『神足さん』の下に『漫画家』と『専属アシスタント』と書く。  一見、飛躍しすぎたような考えは声にし、文字にすると、幾らか真実味を帯びていくが、真実ではない。  斑目もそれは真実ではあるかも知れないが、真実ではないかも知れないことは分かっている。分かっているのに、止めることができない。 「本当に俺らしくない……でも、もし、これが事実なら……」  斑目は少し苛々として、『A』の文字の上に『×』を書き込んだ。  まるで、神が自らの描いた物語を邪魔する者に、制裁を加えるように。

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