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第十四話
「お待たせしました、斑目先生」
数日後、斑目は時々、打ち合わせで使う喫茶店で田口と会っていた。
というのも、専属アシスタントについて、神足が出した答えを聞く為だった。
「斑目先生には残念な結果となってしまったのですが、野瀬先生の専属を希望されました」
賭けとしては負けたとも、勝ったとも言える微妙な結果だったが、やはり保険として野瀬の名前も使っていたのが功を奏したのだろう。
それ程までに野瀬清澄と仕事がしたかったのか、あるいは、斑目直純と仕事をするのは嫌なのか……。
「そう、ですか……それは残念ですが、仕方ないですね。まぁ、でも、野瀬先生が相手なら仕方ないですね」
斑目は澄ました顔で、そんなことを言うと、コーヒーの入ったカップを口に運ぶ。
田口は野瀬清澄の担当者ではない為、斑目が能勢の実の子であることも、弟子であることも知らないようだった。別に秘密にしている訳ではないが、メディアに全く出ない野瀬清澄の片割れの作家であることも知らないだろう。
これ以上、何て言えば良いか分からない田口に斑目は聞く。
「神足さんは……何か、言ってましたか?」
「え……と……」
珍しく歯切れの悪い田口に、斑目は「ああ、何も言っていなかったら、別に構わないです」と続ける。
「……ええ、特には。僕としても、神足さんは斑目先生と凄い作品を作りそうだったから、驚いたんですけどね」
「野瀬……先生よりも?」
「うーん、野瀬先生と神足さんも凄そうですけどね」
田口は上手く言えないけど、斑目と神足の相性が良いのではないかと感じていると言い、カプチーノを飲む。
あくまで田口は仕事上の相性を言っていたに過ぎないのだが、斑目にとっては背中を押される思いだった。
「(さて、次は……)」
田口と分かれた後、斑目はある担当者から得た情報で、ある漫画家と会うことにした。
ある漫画家……それは行方知れずになっている冨手極。神足とつきあい、そして、DV行為をした挙句、手紙1つで神足の前から消えた男だった。
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