2 / 555

第2話

つまみは専用コーナーから適当に見繕い、レジを終えると急いで来た道を戻る。 竜一がいつ来るか解らない。 もしかしたら、今夜はずっと一緒なのかもしれないし、来て早々に帰っちゃうかもしれない……… どちらにしても、こんなの用意した所で、全くの無駄足かもしれない。 ……でも 竜一が少しでも、喜んでくれるなら…… 急いでアパート前までサンダルで走る。と、既にアパート前にはそれらしき車が停まっていた。 通りすがりに中をチラリと見るけれど、運転手は今日もモルではない。 「………」 それが、僕に不安を与える。 モルの身に、何か遭ったのか…… 「……!」 アパートを見上げると、スーツ姿の竜一が二階の廊下を歩いているのが見えた。 再び走り、慌ててアパートの階段を上りきる。 そして、玄関前に立ち止まる竜一の元へと駆け寄った。 パタン…… 「……ん、」 部屋に入るなり 竜一に脇を抱え上げられ、踵が床から離れ爪先立ちになる。 その強引で乱暴なキスは 僕の心の中まで、甘く激しく掻き回す。 「……何だ、これは」 唇が離されると、僕の手にあるビニール袋を見た。 「ビールか……? 悪いが、今は飲みたくねぇ」 僕の手から奪ってビニール袋の中を見た竜一は、直ぐにその口を閉じる。 「走って来た時振り回してたなら、尚更だな」 「……あ……」 手首を掴まれ、強く引っ張られる。 真ん中にあるガラスのローテーブルの上にガサリとその袋を置くと、竜一は壁際にあるベッドへと、僕を乱暴に押し倒した。 「……ま、待っ」 「うるせぇ」 仰向けに倒されたまま慌てて口を開く と、その唇を竜一の唇が塞ぐ。 ……汗かいて、汚いのに…… 本当に僕は、竜一の為に 何の用意も出来ていない事に、落胆した…… 「……さくら」 ベッドに沈む僕に、竜一が声を掛ける。 竜一は上半身裸のまま、ベッドの外で煙草を吸っていた。 「………」 愛され過ぎた僕は、首筋から腹にかけて、幾つも桜の花びらが舞い散っていた。 性急すぎる体の繋がりは、僕の心を置いてけぼりにする。 その事は竜一も解っているのだろう…… 動かない僕から発する雰囲気を、感じ取っているのは確かだ。

ともだちにシェアしよう!