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第3話
ガサッ、
部屋の真ん中にあるローテーブルに、乱雑に置かれる買い物袋。その向こう側──壁際のベッドへと強引に引っ張られ、仰向けに押し倒される。
「……ま、待って」
「うるせぇ」
口答えしようとする僕の唇を、竜一の唇が塞ぐ。
掴んだ手首をベッドに沈め、もう一方の手が服の下に滑り込み、僕の胸を弄る。
……まだシャワー、してないのに……
久しぶりの逢瀬に、こうなる事ぐらい簡単に想像できたのに。
空回りばかりで。竜一の為に何も出来てなくて……本当、情けない。
*
「……さくら」
ベッドに身を沈めたままの僕に、竜一が声を掛ける。
黒眼だけを動かし、声のあった方へと視線を向ければ、仄暗い部屋の中で裸体を晒したまま静かに煙草を吸っていた。
「……」
性急すぎる身体の繋がりは、時に僕の心を置いてけぼりにする。
竜一も、何となく気付いているんだろう。ぼんやりとただ天井を見つめるだけの僕から、何かを感じ取ったみたいだ。
「……ビール貰うぞ」
煙草を口に咥え、テーブル置かれた白いビニール袋に手を伸ばす。
「……」
刻々と支配していく暗闇。
その中で、煙草の小さな赤い光が数秒間、一際明るく灯る。まるで線香花火のよう。儚くも美しい一瞬の輝きが、僕の目に焼き付く。
光が弱まると同時に、竜一の口から吐き出される煙。
プルタブを上げる音。
煙草を指で挟んだまま、反対の手で僕が買ってきた缶を持ち上げ、クイッと煽る。
「………ッ、アルコールゼロじゃねぇか」
直ぐに口を離し、そう吐き捨てる。
「……ごめん。未成年だから、アルコール入ってるの、買えなくて……」
「灰皿は何処だ?」
飲みかけのそれを雑にテーブルに置くと、竜一が再び口を開く。
「……ごめんなさい……今、持って──」
「いや、いい」
その台詞にハッとし、上体を起こそうとすれば、竜一がそれを制す。
「別に責めてる訳じゃねぇ。何処にあるかだけ、言ってくれりゃあいい」
「……」
さっきまで、強引で乱暴だったのに。ぶっきらぼうながら、さりげない優しさを覗かせるなんて……ズルい……
「台所の、流しの近く」
そう告げると、腰を上げた竜一が刺青のない逞しい背中を僕に向け、部屋から出ていく。
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