4 / 555

第4話

抱き起こされ、逞しい竜一の腕に抱えられると 一瞬、胸と胸が重なり 心と心が直接触れ合った様に感じて……甘く震える。 ……竜一…… そっと、竜一の背中に腕を回し その温もりと匂いに包まれる。 ……煙草の匂い。 竜一の匂い。 それに、竜一の息遣い…… 竜一を抱く腕に、ぎゅっと力を籠める。 さっきまでベッドの中で散々したのに 今この瞬間が、一番愛おしい…… 「……!」 竜一に身を委ねていると、竜一の大きな手が僕の後頭部を包み込む。 「………」 グッと引き寄せられ、強く抱き締められると 胸がどんどん熱くなっていく…… 暗くなっていく部屋。 外から漏れる光が、僅かに部屋の一角をぼんやりと明るくさせる。 ……このまま、時が止まっちゃえばいいのに…… そう思っても、叶わない事くらい……解っている。 「……またな、さくら」 竜一は、僕をベッドに下ろし身形を整えると、部屋から出て行った。 パタン、とドアが閉まる。 「………」 こんな時いつも感じるのは 離れた瞬間から徐々に消えていく肌の温もりと、淋しさ…… ……あんなに触れ合ったのに。 記憶として刻まれてはいるけれど 次に逢える時まで、実感する事は出来ない…… 「………」 テーブルの上には、中身の残ったノンアルコールビールと 口を付けていない、麦茶。 寝返りを打つと、擦れた布の音がやけに寂しく耳についた。 夏の様に暑い日差し。 夏の象徴を感じるもくもくとした雲。 ……だけど空気はさらりとしていて、頬を撫でる風が気持ちいい。 若葉の事件があってから、暫く休んでいた学校へと向かう。 報道は、圧力がかかったのだろう……アゲハの殺傷事件に留められ、若葉や僕の名前は殆ど出てこなかった。 それでも、近隣住民や管轄の警察署内には事件に関わった刑事がいて、裏で繋がりのあるフリージャーナリスト達には簡単に情報が漏れていた。

ともだちにシェアしよう!