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第5話

僕は、樫井秀孝事件の被害者の一人であり、女子高生の間で人気急上昇中の芸能人、黒咲アゲハの弟。 加えて、兄殺しで逮捕歴のある若葉の『甥』だという事も、既にマスコミなら知っているんだろう…… 校内までは侵入できないようだけど、その付近にはそれらしい人物がうろうろとしている。 「……工藤さくらくん、だよね?」 いかにも、という雰囲気の男性が、背中を少し丸めながら近寄ってきた。 「………」 ひょろりとしながらも目をギラギラとさせ、まるでハイエナや禿鷹の様に、骨の髄までしゃぶり食い尽くそうと僕を狙っている。 まずは遠くから観察し、じわり、じわりと近付き、一気にパーソナルスペースに踏み込んで、踏み荒らして………相手の反応に喜ぶ、変態の匂いがする。 「黒アゲハの事件があった時、彼と君は……全裸だったらしいね」 いきなりの爆弾に、一瞬怯みそうになる。 ニヤリと口を歪めるジャーナリストを無視し、僕は校門へと向かった。 勝手に横に張り付き、僕を逃すまいとニタつかせた汚い顔。それが否応なしに、勝手に視界に入ってくる。 「……兄弟で、ナニ……してたのかな……?」 「……!!」 その物言いに無性に腹が立ち、足を止めそうになる。 だけど、それこそ相手の思う壺。 「君は樫井秀孝に抱かれたんだろう? 他の男にも、抱かれてるよね…… さぞかし君のカラダは、気持ち良いんだろうねぇ……」 ねっとりとした気持ち悪い声が、耳に張り付く。 相手を嬲って怒らせ、本心を吐き出させよう……というのがジャーナリストのやり口だ。そんなのわかってる。 相手にしなければいい。 そう思っているのに……この虫唾の走る行為に、沸々と怒りが込み上げてくる。 「……一体どんなカラダしてんのか、一度、見てみたいなぁ……」 ククク…… 耳障りな笑い声が、容赦なく僕の外耳を犯す。 門まであと少しだというのに、僕の足はそこまで持ち堪えられそうにない……

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