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第9話
ついでに冷蔵庫を開け、中身を確認する。
昨日の今日で竜一が来る確率は低い。けれど、昨日の様な失態はしたくない……
冷蔵庫横の籠に収まったじゃがいもが目につく。
「……」
それを手にして水で洗うと、水を張った手鍋にそれを入れ、火をかける。
……竜一は、どんなものが好きなんだろう……
考えてみれば、僕は竜一の事を深くは知らない。
竜一の想いを知り、オンナになったけれど……いわゆる恋人同士がする様なデートもなく、そういった会話も殆どしていない……
この前来てくれた時、肉じゃがとか金平牛蒡とか魚の煮付けとか……
おばあちゃんが教えてくれた純和食の食事を出したのだけれど、竜一は特に何も言わずにそれらを口にしていた。
凌の様に、嘘でも喜んでくれたらいいのに……なんて内心思ったのを覚えている。
きゅうりの薄い輪切り、タマネギの薄切り……それらを塩揉みする。
……ポテトサラダ、竜一は好きだろうか……
もっと料亭みたいな、豪華なものが作れたらいいのに……
そんな事を思っていると、携帯が鳴った。
心を見透かされたみたいで、ドキッとする。
慌てて手を洗い、居間のテーブルに置いてあった携帯を手にした。
「……今日はもう少し長く居られる」
玄関先で軽くハグした竜一が、耳元で囁く。
「いい匂いだな」
料理の匂いがしたのだろうか。
僕は竜一の厚い胸板に顔を埋めたまま、こくんと頷いた。
「美味そうだ」
「今、ご飯作ってて……」
「……お前が、だよ」
そう言って竜一が僕の首筋に顔を埋める。
チュッ、と恥ずかしくなるリップ音を立て、貪る様にキスをした。
「……ゃ……」
ゾクッと全身が甘く痺れ、それから逃れようと竜一から少し身を離す。
「優しくしてやるから」
竜一の大きな手が、僕のフェイスラインを包む。
そして少し強引に顔を上げられ、落とされる……キス。
「……ん、っ」
煙草のほろ苦い味。
……だけど、新婚のお帰りのキスより、多分甘い。
竜一の舌が僕の唇を割り開き、甘く蕩ける様に咥内を弄る。
竜一の手が、フェイスラインから後頭部へと移動し、クイッと引き寄せられる。
絡まる舌と舌。
それが深くなり、お互いの唾液が絡み合う。
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