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第14話

「……ううん……今日学校で……アゲハから預かってたって、化学の先生に渡されて……」 竜一は知らない…… 若葉の事件の真相も、あの時アゲハとした約束も…… あの状況下で、アゲハに体を許してしまった事も…… 「化学って……浅間の事か?」 「……え……」 懐かしい、と竜一の顔が綻び瞳を緩ませる。 ……あの人、浅間っていうんだ。 「そうか……」 ピアスを二本の指で摘まんだまま、僕の片耳の前に十字架を宛がってみせる。 「……似合わねぇな」 意地悪そうに、目元を少し緩ませながら一方の口角をクッと上げる。 それでも、それが照れ隠しなのはもう解ってる。 ……竜一は、意地悪だけど……妙な所で優しくて……こういう可愛い所があるから……好き。 「竜一も……」 片手を伸ばし、竜一の片耳についた同じものに触れる。 「ふ、……似合わねぇ者同士か」 竜一が眉山をピクリとさせると、もう片方の手が僕の肩に触れる。 散った赤い花片……そこを擽る様になぞられた後、襟足に回り、グッと引き寄せられる。 「………」 竜一の胸の中に、すっぽりと体が収まる。 それは、欠けた部分が綺麗に埋まる感じ…… 「………」 さっきとは違う……優しくて、温かくて、甘ったるくて、安心する……僕の居場所。 竜一を見上げ、脇から背中に腕を回し……心臓と心臓を近付ける。 そして肩口に顔を埋めれば、竜一の大きな手が背中に当てられる。 ……とくん、とくん、 その時、僕の中に『幸せ』という文字がいくつも浮かぶ。 ……幸せ…… なんか、変だ……いいのかな……こんな僕が、こんな感じてしまって…… ふわふわと心地よい……陽だまりの様な温もりを感じながら、ふと足元に色濃くできた影の存在に気付く。 急に不安に襲われ、払拭しようと竜一を抱き締める腕に力を籠める。 「……なんだ、またしてぇのか?」 意地悪な言葉が耳元で囁かれた。 「にしては色気のねぇ誘い方だな」 そうからかう様に笑った竜一の手が、背中から後頭部へと移る。 そして子供をあやすかの様に、髪に指を差し入れ、小さく頭を撫でた。 ……幸せ、だ…… 「………」 だからこそ…… ……幸せすぎて……壊れてしまわないか……怖い…… 怖いよ……竜一……

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