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第15話

××× 太陽が顔を出し、カラッとした風が僕の肌を優しく撫でる。 窓を全て開け、朝から掃除に洗濯にと、忙しく働く。 白のタンクトップ。ショートパンツ。露出度は高いけど、この位ならいいよね……そう思いながらベランダに出ると、洗ったシーツを物干し竿に掛け、パンッと引っ張って干す。 風に吹かれて揺れるそれを洗濯ばさみで止めながら、つい昨日の事を思い出してしまう。 「……」 ……僕のエッチ。 肌に触れられる感覚が蘇ってしまい、直ぐに払拭する。 部屋に戻り、先に干して取り込んでおいた掛け布団をベッドに戻すと、再び居間へと戻る。 まだ途中だった拭き掃除──テレビ台や小さなタンスの上を、丁寧に拭いていく。 物を余り持っていないから、拭き掃除はそんなに苦ではない。バケツに注いだ水で雑巾を洗って絞り、四つん這いになって隅から隅まで床拭きをする。 ふわっ…… 時折流れ込む、心地良い風。 レースカーテンの裾が靡いて揺れる。 手を止めて、そこから窓の外を眺める。 雲ひとつない、清々しい青空。 こんなに穏やかな毎日を過ごせる日が来るなんて、想像もしていなかった。 過去の僕にもし会えたとしたら、今の僕の状況を教えてあげたい。 でもきっと、反発して信じないんだろうけど…… 「……」 ふとした時に遅いかかる、違和感。 何でだろう……これが現実なのに、嘘なんじゃないかと錯覚する時がある。 お前の居場所は、こんな穏やかな所じゃない。折檻部屋で見た、ただの逆夢にすぎない──そう誰かに言われているような気がして。 気が緩んだ瞬間(とき)を、誰かが狙ってる。 僕の首を絞めようとする手──この夢が覚めたら、鬼のような形相をした母が襲い掛かり、僕の首に両手を掛け、絞め殺そうとしているんじゃないか。 もしかして、これ自体が──死ぬ間際に見る幻夢なんじゃないか…… ………ばさっ、 突風が吹き、大きく煽られるレースカーテン。 その刹那──視界にあった青い空を遮り、真っ白に変える。 「……」 その(さま)に、現実を突き付けられた様な気がした。 普通の人が感じる日常を、こんな僕が経験してしまっていいんだろうか。 学校の教室で感じた時のように、世の中に交わっているように見えて、本当は上手く溶け込めてないんじゃないか──あのカーテンを一枚隔てた場所に、僕はいるんじゃないか…… そう思うと、常に感じていた薄い膜に張られた様な違和感が、腑に落ちる。 「……」 綺麗になった部屋。 六畳二間のアパートは、僕一人で暮らすには……広すぎる。

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