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第19話

裾が床に届きそうな程垂れ下がり、素肌がスースーする。 雨はまだ降っている様で、窓の外からサァーという静かな雨音が聞こえる。 それと共に、ひたひたという水の滴る音…… タオルで軽く拭いただけの湿った髪の毛先から、ポタポタッ、と雫が床に垂れる。 それを新しいティッシュで拭き取った、その時だった。 ……! 不意に何かを感じ、身を捩って背後を見る。 「……随分無防備なんだねぇ」 僕の足元に立つ作業員が、静かに見下ろしていた。 昼間だというのに薄暗い部屋。 キャップの影になって見えない顔。 そのツバの下から覗いた口が、ニヤリと歪む。 ……気付くのが、少し遅かった…… 男の手が伸び、逃げようした僕の腰を掴む。 それでも手足を動かし、前進しようとした。……けど、凄い力で引っ張られ乱暴に倒される。 「………っ、!」 天井から見下ろされる、顔。 目がギラギラと異様に輝き、緩んだ口から出た舌が、別の生き物の様に己の唇を舐める。 ……知らない……顔…… 腕の付け根辺りを上から押さえつけられ、男が僕の腰上に跨ぐ。 足をバタつかせ身を起こそうにも、びくともしない……唯一動かせる手で男の腕を掴んでも、何の抵抗にもならない…… 男は片手で軽々と僕の両手を纏め、僕の頭上の床に強く押し付ける。 そして口元を厭らしくニヤニヤとさせ、乱れた裾を摘まんでゆっくりと捲った。 剥かれた上半身が、男の前に曝される。 「…君の喘ぐ声、聞いたよ……ハァハァ……凄く厭らしくて、聴いてて堪らなかった……ハァハァハァ…」 キャップのツバを摘まみ、横にずらす。 「ここを引っ越す時に、…ハァハァ……盗聴器を仕掛けて、女が入るのを期待していたんだ……ハア……」 その肌に、男の唇が近付き、吐かれた荒い息がかかる。 「……けど、あんな声聴かされたら……はぁ、はぁ、……」 鎖骨の下、脇に近い場所に男の唇が当てられる。 「…………」 ……反応したら、きっと喜ぶ。 そうは思っても、この体を、竜一に捧げた僕の全てを……このまま奪われる訳にはいかない。 身を捩る。 けど、直ぐに男の手がそれを押さえる。 ……! 尖った男の舌先が、スッと肌を滑り 小さく膨らんだ蕾に到達する。 「……っ、!」 そこを執拗に弾かれ、舐められ、涎でベトベトになるまで吸い付かれる。 『それは偽物じゃねぇだろうな』 『お前はすぐ変態にヤられるからな』 ……確かに、無防備だった。 例え本物の作業員だったとしても、もう少し警戒するべきだった。 今更後悔しても遅いけれど、このまま好きなようにさせたくはない…… 腕に力を入れ持ち上げようとする。 同時に足をバタバタさせ、床をドン、ドン、と踵で叩いた。 「……煩いなぁ、」 身を起こした男は、騎乗した馬に鞭でも入れるかのように、僕の太腿をぱんっ、と平手打ちした。 「……もしまた煩くしたら……」 そう言いながら、男は腰袋からカッターを取り出す。 そしてこちらに向けながら、チチチ…と小さな音を立て、刃先を伸ばした。

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