19 / 558
第19話
裾が床に届きそうな程垂れ下がり、素肌がスースーする。
雨はまだ降っている様で、窓の外からサァーという静かな雨音が聞こえる。と共に、ひたひたという水の滴る音……
タオルで軽く拭いただけの湿った髪の毛先から、ポタポタッ、と雫が床に垂れる。
それを新しいティッシュで拭き取った──その時だった。
「──!!」
不意に何かを感じ、身を捩って振り返る。
「………随分と、無防備なんだねぇ」
直ぐそこに立つ作業員が、静かに僕を見下ろす。
まだ昼間だというのに薄暗い部屋。キャップの影になって見えない顔。
そのツバの下から覗いた口が、ニヤリと歪む。
……気付くのが、遅かった……
突然の恐怖に、背筋が凍る──そんな余裕もなく男の手が伸び、逃げようと動いた僕の腰を掴む。
それでも──手足を必死で動かし、前へ逃れようする。
ズズズズ……
凄い力で床を引き摺られ、手荒く仰向けにひっくり返される。
「………っ、!」
上から見下ろされる顔──ギラギラと異様に眼が輝き、緩んだ口から現れた舌が、別の生き物の様に己の唇を舐める。
……知らない……顔……
腕の付け根辺りを上から押さえつけられ、男が僕の腰上に跨ぐ。
足をバタつかせて身体を浮かそうとしても、びくともしない。唯一動かせる手で男の腕を掴むも、何の抵抗にもならない。
男は片手だけで軽々と僕の両手首を纏め、僕の頭上の床に押し付ける。そして、ニタニタと厭らしく笑いながら、僕の乱れた服の裾を摘まんでゆっくりと捲る。
「……」
露わになる胸元。
それを、男が舐めるように黒眼を上下に動かす。
「……君の喘ぐ声、聞いたよ。……ハァハァ……凄く厭らしくて、聴いてて堪らなかった……ハァハァハァ……」
キャップのツバを摘まみ、耳の方へとずらす。
「ここを引っ越す時に、……ハァハァ……盗聴器を仕掛けて、女が入るのを期待していたんだ……ハア……」
剥き出されたその柔肌に、乱れた吐息が掛かる程、男の顔が迫る。
「……けど、あんな声を聴かされたら……はぁ、はぁ、……」
鎖骨の下──脇に近い場所に男が顔を埋める。
「……」
……反応したら、きっと喜ぶ。
そう解っていても、この身体を……竜一に捧げた僕の全てを、このまま奪われる訳にはいかない。
ともだちにシェアしよう!