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第20話

力いっぱい身を捩る。 けど、直ぐに男の手が強く押さえ込む。 「……っ、!」 柔肌を舐め回した後、尖らせた男の舌先が胸にある小さな蕾を弾く。 神経に沿って走る、嫌悪感。 そこを執拗に食まれ、舐められ、涎でベトベトになるまで吸い付かれる。 『それは、偽物じゃねぇだろうな』 『お前はすぐ、変態にヤられるからな』 ……確かに、迂闊だった。 例え本物の作業員だったとしても、もう少し警戒すべきだった。 今更後悔しても遅い。けど、このまま好き勝手にはさせたくない。 ドンッ、ドンッ…… 腕に力を入れ、押さえ込む男の手を弾こうとする。と同時に足を大きく動かし、何度も踵で床を叩く。 ──ぱぁんっ、! 身を起こした男が、僕の太腿を平手打ちする。まるで騎乗した馬に鞭でも入れるかのように。 「煩いなぁ……」 そう言いながら、腰袋から男が取り出したのは──カッターナイフ。 「……もし、また煩くしたら……」 チチチ…… 小さな音を立て伸びる刃先。それが鋭く光る。 「──!!」 その瞬間、身体の芯が痺れ、冷えた指先が小刻みに震える。 まるで金縛りにでも遭ったかのよう。身体が硬直し、息も上手くできない…… ………ぃやだっ、……やめ……て……っ、 湿気た畳。鼻につくヤニの臭い。僕を押さえつける手、手、手── 一瞬にしてここが、集団レイプに遭った溜まり場へと一変する。 暗闇……重苦しい空気…… 薄い膜の様なものが僕の身体を覆い、あの時の記憶も、感情も、何もかも全て閉じ込め、真空パック状にする。 ……ぃ″あ、ぁあ″あぁ″アァッッ──! 胸に走る、焼かれる様な痛み。 此方に向けられた刃は、まだ|空中《そこ》に留まっているというのに…… その男の手元から分裂した(シャドウ)が現れ、ニヤリと口元を歪ませながら、両手で握り締めたカッターを僕の胸に突き立てる。 ───ドクンッ……!! 「……っ、」 ……声が、出ない…… 過呼吸のように上擦って……真面(まとも)に吐き出す事が出来ない…… 空気砲で打ち抜かれたような衝撃。 胸を切り裂かれる痛みの記憶。 容赦なく向けられる欲望の視線…… 「……ふ、」 瞳孔が開き、抵抗出来なくなった僕を確認すると、満足げな笑みを浮かべる作業員が、拘束していた僕の両手首を解放する。 ビリッ、ビビビィィ─── 僕のTシャツを掴み上げると、その真ん中辺りに刃先をを突き刺し、空いた穴に四本の指を差し込んで左右に引き裂く。

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