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第22話

この空間に似合いそうで、似つかわしくない音…… 男が即座に反応し、少し屈めた背筋を伸ばす。 「………」 ……コツ、コツ、コツ、コツ、 迫り来る靴音。 やはり、室内には似つかわしくない…… それに警戒するように……だけど僕から退くつもりはないのか……男は入り口の方をじっと見据えていた。 ……コツ、…… 靴音が止まる。 と、僕の腿裏に触れていた男の指が、途端に震え出した。 胸の前に身構え握りしめたカッターも、大袈裟な程大きく震えている。 「………ん?…何だテメェらは……」 低くドスの利いた声…… 見るからに、いかにも……といった感じの身形をした背の高い男が、革靴を履いたまま部屋へ一歩、足を踏み入れる。 高級スーツにオールバック……その姿は、竜一のそれと同じ雰囲気を醸し出し、そっちの世界の人だと容易に肌で感じた。 「……って、……ちぃっとばかし、穏やかじゃあねーみてぇだな」 強い威圧感。だけど、怒鳴り散らす訳でもなく……顎を少し突き出し興味無さそうに見下げながら、静かに作業員と僕の様子を傍観していた。 その背後から、別の男がスッと現れる。 黒のスーツ姿……無機質に見える白金の長い髪…… 恐らく玄関ドアのチェーンを切ったであろう、大きなボルトクリッパーを肩に担いでいた。 「……さくらっ!?」 その男が、驚いた表情で口を開き僕の名を叫んだ。 まだ息すらまともに出来ない僕は、それに反応するかの様に、ゆっくりと瞬きをしながら目玉だけを小さく動かす。 ……え、……なん、で…… それは、幻影なんかじゃない……幻影とは違う…… 「……、っ!」 驚いた顔が一瞬で引き締まる。 その刹那、見開かれていた瞳は細く何処までも吊り上がり ……何の感情も持たない、深い闇へと濁る。 ……ガッ! 足早に近付いたと思えば、担いでいたボルトクリッパーを片手に 作業員の額をフルスイングした。 サァッ、と血が飛び散り 男の頭が後方へとぶっ飛ばされる。 「………」 その、躊躇のない攻撃は…… カッとなったら、何をしでかすかわからない…… 「……おーおー、随分と派手にやってくれたなァ、ハイジ」 ハイジ…… ……生きて、た……

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