23 / 555

第23話

まさか、こんな形で再会するなんて思わなかった…… 「……ハイ、ジ」 そう呟き、口端を小さく上げて見せる。 僕なりに、笑ったつもりだった。 「………」 そんな僕を、スーツ姿のハイジが冷たく見下ろす。 ……確かにハイジだ。 だけど、以前の……僕が知ってるハイジじゃない…… ……ドロ…ッ…、 作業員の額を抉ったのだろう……ボルトクリッパーの刃は血だらけであった。 粘着性のある赤黒い血が、その先端から糸を引くように滴り落ちる。 「………っ!」 トロリとした生暖かい感触…… ゆっくりと、両手を持ち上げる。 あんなに動かなかった腕が、痺れは残るものの、いとも簡単に動いた事に驚く。 指先で顔を拭う。 赤い、……血……? 手を広げた五本の指の間から、冷ややかなままのハイジの瞳がこちらを覗く。 ……なん、で…… 目の前で、アゲハの首が掻っ切られる瞬間の光景が、鮮明に蘇る。 血が飛翔し、思わず目を瞑る。 「………」 ……ああ、もう……情けない。 何でこんな、……震え……ちゃうんだ…… 手が宙に浮いたまま 再び動けなくなる…… 「知り合いか?」 高級スーツに身を包んだ男が、そう言い放つ。 それに反応したハイジが、男の方へ振り返ると直ぐに答えた。 「……いえ、全然知らねぇ奴でした」 「へぇ……」 何かを見透かすかの様に、顎を弄りながらハイジの眼を覗き込む。 「……止めて下さい、龍さん 惚れてたオンナに、ちょっと似てただけっすから」 そう答えたハイジが、血を流してぶっ倒れた作業員をチラリと横目で見た。 ハイジに龍と呼ばれた男は、僕を興味深げにじっと見下ろす。 「…山本の女……な訳ねぇか………にしても、どっかで見た事ある面してんだよなぁ」 「………」 バタバタと足音が近付く。 二人が入り口へと顔を向けると、黒地に白龍のスカジャンを羽織った男が慌てた様子で入ってきた。 そして龍に駆け寄り、そっと耳打ちをする。 報告を聞きその男と共に部屋を後にしようとした龍が、部屋の入り口で立ち止まる。 「……あぁ、そういやぁお前、男でも女でもイケるんだったよなぁ」 そう言って振り返った龍は、ニヤリと口を歪ませハイジに鋭い視線を向ける。 「そいつ、……お前の女にしちまえ」 男の言葉に、ハイジの瞳が一瞬見開かれる。 ……しかし直ぐに冷酷な瞳に戻った。 「………」 床に滴る血が、次第に固まっていく…… ハイジは、震えて動けなくなった僕に再び視線を落とした。

ともだちにシェアしよう!