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第26話
「……」
頸動脈を的確に捉えた指に力が籠められ、ギリギリと絞められていく。その指圧は、迷いもなく容赦もなくて。
ドクドクと次第にそこが激しく脈打ち、耳の奥から細くて高い、キーンという音が鳴り響く。
苦しさからか、指先が勝手に痙攣する……
……墜ちる……
全身が、ビリビリと静電気を流されたかのように痺れる。
ドクドクドクドク……
酸素を送ろうと心臓が激しく暴れ、血液を懸命に押し流す。
指先や爪先が冷えていき、痺れが強くなっていく……
「……っ、」
不意に、何かが頬に当たる。
虚ろなままゆっくりと瞬きをひとつすれば、ぼやけた視界に映るのは……
……ハイジ……
なん、で……
あんなに殺意に満ちていたのに。尖っていた眼が緩み、下瞼に溜まっていた涙が零れ落ちそうになっていた。、
ヒュッ──ゲホッゲホッ、
ハイジの手が離れると同時に、一気に吸い込まれる空気。
手首を拘束されたまま両膝を折り曲げ、横向きになって身を縮めながら咳き込む。
「……」
滲む視界の中、僕から離れ仰向けになったハイジが、広げた両手のひらをじっと見ていた。
その指が、小刻みに震えている。
「……さくら」
微かに震える声。
浅い息を繰り返し、まるで発作のよう。
ボルトクリッパーで、何の躊躇もなく作業員の額をフルスイングした時と、同一人物とは思えない。
「オレ、さくらを失いたくねーよ……」
不安に満ちた瞳が揺れる。
数時間前──
ボルトクリッパーを床に落とし、僕をジッと見下げていたハイジが僕の二の腕を引っ張る。
前を大きく破られたTシャツ。脱がされた下着とショートパンツ。其れ等を指示されるまま身につけると、後ろから目隠しをされ、何も見えないまま引っ張られて車に乗せられた。
目隠しが外されたのは、ベッドに拘束された後。
腰上に跨がったハイジが、上から僕を覗き込む。その顔は逆光で、よく見えなかったけど。狂気に満ち、どこまでも深い闇に吸い込まれそうな眼が、鋭く吊り上がっているのだけは解った。
──パンッ、
突然──頬を強く叩かれる。
別に抵抗なんて、していなかった。
瞬きもせず、ただハイジを見つめていただけなのに……
手加減はしたのだろう。多分、警告のつもりだ。
もし抵抗したら、こんなものじゃ済まないという一種の脅し。服従させる為の暴力行使。
「……」
見据えた眼に孕む、何処までも深い闇──
それが、やっと今……取り払われたような気がする。
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