26 / 555

第26話

「……できたら……外して」 ゆっくりと小さく、努めて冷静に言ってみる。 また急変してカッとなるかもしれない…… 僕の声に気付いたハイジが、顔から手を外してこちらを見る。 その瞳は、小さく揺れるだけで、僕を映してはいないようだ。 「ダメだ……外せねー」 「………」 まるで過呼吸の様に呼吸を乱し、再び両手で顔を覆う。 まるで何かに怯えるように、両肩を震わす。 「ああっ……違ぇよ、くそっ」 無機質なほど白金色した横髪を無造作に鷲掴む。 「外してやる……けど、逃げんなよ」 「……うん」 ……ハイジ…… 一体何があったの……? 何がハイジをそうさせてるの……? その後のハイジは、優しかった。 手錠を外され身を起こした僕に、まるで壊れものでも扱うかのように優しく抱き寄せる。 それは、僕が家出をして初めてハイジと体を重ねた……あの時の事を彷彿とさせた。 「悪ぃかった……」 フェイスラインに手を添えられ、少し角度をつけたハイジの顔が近付く。 白金の髪がさらりと揺れた後、その唇が僕の唇に重なる。 ……その触れ方も、さっきの乱暴さは微塵も感じられない。 ああ、これがハイジだ…… 僕の知ってる、ハイジ。 閉じた瞼の裏に、あの時の光景が浮かぶ。 まだ少しだけ震える指が、フェイスラインから首筋……そして鎖骨へと滑り落ちる。 ……ただ、触れただけのキス。 柔らかな感触だけを残し、ハイジの唇がゆっくりと離れる。 「痛かったよな……」 鎖骨に触れていた指が離れ、腫れ物にでも触るかの様に、僕の首筋をそっと撫でる。 先程の圧痕が、浮き出てしまったのだろうか……ハイジの視線が、其処へと向けられる。 「……オレ、すげぇ……自分が怖ぇよ……」 怯えた様に、瞳が小さく揺れる。 「襲われてるさくらを見た瞬間……オレ、訳分かんなくなっちまって……」 「………」 「どうしていいか、解んねぇよ」 僕から手を引っ込め、自身の髪を搔き上げる。 そしてそのまま髪を握り締め、思い詰めた様に視線を下げた。 「………」 そういえば…… 過去に一度だけ、ハイジが狂気的になった事がある。

ともだちにシェアしよう!