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第28話

「さっきも……本気でさくらを……」 あの日の夜も、こんな感じだった。 殴るのを止められなくなった事への罪悪感が一気に押し寄せ、ハイジの心を押し潰そうとしていた。 「………」 ハイジに手を伸ばす。 そっと肩に触れれば、ハイジはビクンッと体を震わせた。 「……いいよ」 顔を少し上げたハイジと目が合う。 その瞳は、まるで子供のように潤み、一心に僕を求めた。 「さくら……」 小さくそう唇を動かしたハイジは、今度は僕に強くしがみつく。 そして鼻を擦り付ける様に、僕の首筋に顔を埋める。 ……はぁ、はぁ、 荒く熱い息がかかる。 「……さくら、さくら」 吐息交じりに繰り返し僕の名を呼び、僕の首筋や鎖骨に唇を当て、貪る様に激しく食む。 そのままゆっくりとベッドに僕を倒し、発作の様にそこに吸い付くと、熱い舌を這わせる。 ハイジの指が僕の腕を辿り、やがて手のひらを見つけると、指を交差する様に絡ませた。 「………」 地面に倒れた男が二人。 茶髪は急所の一撃で気絶している。 一方の金髪は、鼻がへし折れ頬の一部が陥没し、血だらけで赤黒く、人相が解らなくなっていた。 それをチーム仲間が取り囲み、頭を寄せて見下ろす。 「……スゲェ」 「これはマジでヤベぇって」 「で、どうすんだよ、ハイジ」 「……心配ねーよ」 ハイジは顔色ひとつ変えず、ポケットから携帯を取り出す。 「悪ぃがお前ら、さくらを連れて先帰っててくんねーか?」 ハイジの指示に、仲間達が訝しげにお互い顔を見合わせる。 「……ハイジ、何する気だよ」 その言葉を無視し、ハイジは僕に顔を向ける。 ……その瞳は鋭く、まだ邪鬼を孕んでいる様に見えた。 「……おい、モル」 器用に携帯を片手で操作し耳に当てると、ハイジはモルにその瞳を向けた。 「お前は残れ」 「……了解ッス!」 それまで円陣の中で黙っていたモルが、笑顔で即答しながら敬礼する。 モル以外は、倒れた男からバラバラと離れ、停めたバイクの元へと向かった。 その中の一人が、振り返って僕を呼ぶ。 「……姫」 ……はぁ、はぁ、 先程の無理矢理とは違う。 だけど、初めての時とも違う。 あの日の夜も、こんな風に怯え僕に甘えてきたけれど…… ……あの夜よりももっと怯えきって、僕にのめり込んでいる。

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