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第29話
「さっきも……本気でさくらを……」
あの日の夜も、こんな感じだった。
暴行を止められなかった罪悪感が一気に押し寄せ、ハイジの心を蝕んでいるように見えた。
「……」
ハイジに、手を伸ばす。
そっと肩に触れれば、ハイジがビクンッと身体を震わせた。
「……いいよ」
少しだけ顔を上げたハイジと目が合う。
その瞳は、まるで子供のよう。一心に僕を求めて潤む。
「さくら……」
僅かに唇を動かした後、縋るように強くしがみつく。そして鼻先を擦り付けるようにして、僕の首筋に顔を埋める。
はぁ、はぁ……
「……さくら、さくら」
柔肌に掛かる、乱れた熱い吐息。
僕の名を口にしながらそこを何度も唇で食み、貪る様に舌を這わせる。
……はぁ、はぁ……
そのままゆっくりと僕を押し倒し、発作のように何度も吸い付く。
僕の腕を辿り、滑らせるように下りていく手のひら。僕のそれと重ね合わせながら、指の間にハイジの指が交差する。
「……」
地面に倒れた男が二人。
茶髪は、急所の一撃で気絶していた。
一方の金髪は、鼻がへし折れ頬の一部が陥没。赤黒く血塗れ、人相が解らなくなる程原形を留めていなかった。
それをチーム仲間が取り囲み、頭を寄せて見下ろす。
「……スゲェ」
「これはマジでヤベぇって!」
「で、どうすんだよハイジ」
「心配ねーよ」
顔色ひとつ変えず、ポケットから携帯を取り出すハイジ。
「悪ぃがお前ら、さくらを連れて先帰っててくんねーか?」
ハイジの指示に、仲間達が眉を潜め其れ其れの顔を見合わせる。
「……ハイジ、何する気だよ」
その言葉を無視し、少し離れていた僕に顔を向ける。その瞳は鋭く、まだ邪鬼を孕んでいる様に見えた。
「──おい、モル」
片手で器用に携帯を操作し、耳に当てながらモルに視線を向ける。
「お前は残れ」
「……了解ッス!」
それまで口を閉ざしていたモルが、ハイジに笑顔で敬礼する。
モル以外の仲間はその場を離れ、停めたバイクの元へと向かう。
その中の一人が振り返り、僕を呼ぶ。
「……姫」
……はぁ、はぁ、
さっきまでの、無理矢理とは違う。
初めて身体を重ねた時とも違う。
怯えながら僕に甘えつくのは、あの日の夜に似ているけれど……
あの時より怯えきっていて、僕にのめり込んでる。
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