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第30話

手首に嵌められた手錠。 今度はベッドの柵にくくりつけられていないから、部屋の中を自由に動き回る事はできる。 シャワーも浴びにいける。 だけど、囚われている事に変わりはない。 ザァァァ…… 未だ激しく降る雨の音。 竜一専用の携帯は、あの部屋に置いたままだ。 三日連続……なんて奇跡みたいな事はあり得ない。 多分、一度も鳴ってはいないだろう。 竜一もまだ異変に気付いていない筈…… あの龍って人が、竜一に何かを吹き込まない限り。 目的は何なのだろう…… 何であの部屋に、入ってきたんだ。 竜一を探していた……様には思えない。 だったら、僕を捕まえて真っ先に問い詰める筈だから。 僕……でもない。 興味などない目つきだったし、僕の事を、どっかで見た事がある……と言っていたくらいだ…… 『……最近、何か変わりはねぇか?』 ふと、竜一に言われた言葉を思い出す。 ……だけどあれは、竜一と繋がりがある事で、何か危害を加えられないか……気に掛けた言葉だ。 単に確認のため…… それとも、何かがあるから……? あの龍って人と、何か…… 「……そのままだったのかよ」 いつの間にか、眠ってしまったらしい。 パタン、とドアの閉まる音と共に、ハイジの少し呆れた様な声色がして、目が覚めた。 ……確かに、ハイジが出て行ってから一歩も動いていない。 ベッドに降りてさえも…… 横を向いたままの体を起こそうと、手足を僅かに動かす……しかしそれだけで、注ぎ込まれた精液が溢れ出てしまう…… ……痛い。 切れた所が染みて、痛い…… 「ほら、」 強引に僕を仰向けにし、首の下に腕を差し込んで僕の体を起こす。 その瞬間、下腹部に力が入り、漏れ出た白濁液でシーツが濡れてしまう…… それが空気に晒された後乾いた肌に触れれば、ひやりと濡れ染み、不快感が募る。 「……さくら」 ハイジがベッド端に腰をかける。 何処から取り出したのか、手には黒革の短いベルトがあった。 「痕が目立つから、これ付けろ」 ハイジが僕の首にスッとそれを当てる。 そして自身の首を傾け、絞めすぎない様確認しながら巻き付けると、ベルトを止めた。 痕とは、所謂キスマークではなく、首を絞めた時にできた圧痕の事だろう…… もしキスマークだとしたら、鎖骨やその下にも、桜の花片が散った様に付けられている。 「……ハイジ」 「似合ってんな……」 硬く重厚感のあるそれが、簡単に僕を人間以下に変える。 ジャラッ…… 首輪にある飾りの鎖が、音を立てて小さく揺れた。

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