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第31話

……ジャラッ 動く度に、小さな音がする。 その度に……僕がハイジの所有物だという事を思い知らされているようだ。 「……痛く、ねーか?」 浴槽の中……背後からハイジの体にすっぽりと収められ、ぎゅっと抱き締められる。 竜一とは違う……竜一より細く、だけどしなやかな筋肉が付いた、男らしい腕。 「………」 「なんか、喋ってくれよ」 少し寂しそうな声…… ハイジの指先が、僕のフェイスラインをそっと撫でる。 それが、僕の気持ちを探る行為なんだって事は……解ってる。 「……なぁ、さくら……」 「………」 「オレと離れてから今まで、どうしてたんだよ」 ちゃぷ、ん…… 浴槽内のお湯が揺れ、水音が浴室内に響く。 ハイジと別れたのは……次にやる仕事が警察に捕まるかもしれない程ヤバイものだから……と言われた。 僕にはそれが、結局何の仕事だったのか……知らない。 どうしてハイジがそんな危険な事を、犯さなければいけないのかも…… 折り畳んだ膝に手を掛け直す。 と、また水面が揺れ水音が響く。 「……どうせ、知ってるんだよね」 「まぁ、な。大抵の事は……でも、」 「それなら……聞かないでよ」 樫井秀孝の一件から、僕は何度もマスコミに取り上げられた…… それから、凌の事や若葉の事でも……裏社会の人間なら、きっと一度くらいは耳にしている筈だ。 「拗ねんなよ」 「……」 「オレは樫井の話を聞くまで、さくらは堅気の世界へ戻って、幸せに暮らしてるモンだと思ってたし……そう信じてたんだぜ……」 ハイジの指が止まる。 「……あぁクソッ、やっぱすげぇムカつく」 その指が、小刻みに震えた。 「薬使ってさくらを思い通りにしやがって……ぜってーぶっ殺してやる」 怒りで震える声。 今のハイジでは、冗談にもならない…… 「……ハイジ」 「あン?」 「そういうの、止めてよね」 僕を包む、ハイジの腕にそっと触れる。 ……あの日、僕に声を掛けた金髪の成りの果てを思い出す。 ……ごめん、ハイジ…… ハイジは今でも、こんなに僕を思ってくれているのに…… ……僕は…… 「……!」 ハイジの指先が、僕のフェイスラインから下唇へと移動する。 そして紅をさすかのように、そっとなぞり……弄ぶ。 硬く主張したハイジのモノが、僕の腰に当たっているのがわかった。 「……だったら、しようぜ」 首を竦めれば、自分の立場を思い出させるかのように……首輪の鎖が小さな音を立てて揺れた。

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